【完結】【応募版】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで
【ハーレムに加えてほしいと頼まれたけどオレは純愛厨だから君だけいればいい】◆7【※多一視点】
◆7 ① 再生 + ② side story 【幼馴染との約束】 + ③ 居所
◆◆◆ 7 ① 再生 ◆◆◆
紫織の兄に起こった事を知る。紫織を庇って怪我をした後、行方が分からなくなったと聞いた。
紫織は暫く、学校を休んでいた。
学校に来るようになってからの彼女は、笑わなくなった。できなかったんだと思う。
オレは傍にいる事しかできず、ただ彼女を見守っていた。
拓馬が以前、玻璃の悪い噂を流したのは……紫織に執着する仁の関心を逸らす為だったようだ。無駄だったけど。
賢吾は薄々、気付いていた。「殺人鬼役」は多分、仁だろうと。
逃避行ルートの舞台を探していた時、地図に番号で1から9までの場所を示されたが……可能性の高い番号を、逆に言ったそうだ。足止めの為に、わざと。
本当は「9」ではなく「6」番が本命だった。
本を逆さに読んでいたのは、オレにヒントを伝えたかったのだと。
分かるかよ!
だが仁は、苦々しい顔で賢吾を睨んでいた。効果はあったらしい。
それにしても。今は魔法を封じられているとは言え。これから仁と、どう関わっていけばいいんだ?
オレは軽い怪我で済んだけど、紫織のお兄さんは……。
あの件があった以降……仁は性格が暗くなったかのように、どんよりした面持ちでいる。
教室の後方の席に座り俯いている仁を、複雑な心境で眺める。
しかし。休み時間中の教室に拓馬が訪れた際、状況が変わった。拓馬が言い放つ。
「こいつの面倒は、オレが見る!」
クラス中の視線が、拓馬と仁……二人へ集中する。
「オレは、この人生も泥臭く生きていこうと思ってる! こいつも、道連れにしてやる!」
拓馬の宣言に、仁の相貌が青ざめていく。
「なっ! オレは……!」
反論しようとする仁の言葉が遮られる。
「オレが色々、教えてやるよ」
提案する拓馬の顔には、魔王のような凄みのある笑みが浮かんでいる。
「いっ……嫌だ……!」
二人の間に、一体……何があったんだ。涙目になっている仁が、拓馬によって廊下の方へと引きずられて行く。
彼らの側へ、歩み寄る人物がいる。賢吾と三弥、恭四だ。
賢吾が指摘する。
「まさか。噂の通り、二人……高校へ行かないつもりなんです? 受験から逃れる気ですか……?」
薄らと……賢吾たちの周辺に、怒りのオーラが漂っている雰囲気を感じる。
三弥も腹黒そうな笑顔で、ねっとりと言う。
「ボクたちを仲違いさせた罪は、重いよ?」
恭四も訴える。
「お前らだけ、ずりーぞ!」
オレも交ざって、ツッコミを入れる。
「恭四のは、ただ勉強をしたくないだけだろ」
仁のした事は許していいものじゃないが……再び道を踏み外さないように、見守るぐらいは手伝わねーとな。
拓馬が、ポカンとした表情で呟く。
「え……オレも?」
その後、仁と拓馬の二人は……賢吾と三弥の指導で、みっちりと勉強させられた。
中学を卒業する頃、紫織に確認する。いつも通る細い坂道の、石垣の側で。やっとの心境で、気持ちを尋ねる。
「高校を卒業したら、結婚してほしい」
振られるかもしれないと覚悟して口を結んだ時、返事をもらった。
……受け入れてくれた。
勢い余って、彼女を抱きしめる。
「フフッ」
彼女の笑い声を聞いたのは、本当に久しぶりで……込み上げるものがある。
涙を溜めた瞳で、微笑まれる。
「何で多一君も、泣いてるの? ……ありがとう」
◆◆◆ 7 ② side story 【幼馴染との約束】 ◆◆◆
るりの望みを叶える為に、人生を捧げた。
いつの事だったか。彼女から願われた。「彼女」を助けてほしいと。
「彼女」とは、るりの友人で……通り魔に傷付けられ入院したと聞いた。犯人は捕まっていない。今、思えば。それが「魔法」によって行われたのなら、捕まらなかったのも頷ける。証拠も残らないだろう。
るりは大層ショックだったようで、随分と憔悴していた。
オレは、るりの幼馴染だった。小学校に通っていた頃は、ちょくちょく交流があった。中学では疎遠になったけどな。
当時のオレは、ひょろっとした弱々しい奴だった。るりと、接点を持てなかった。そのまま大人になり、人生を終えた。
るりの願いを聞いたのは、後の人生でだ。再び「オレ」としての人生を歩んでいた。気付いたのは、小四の時分。るりが言い出したのだ。泣きながら。怖いイメージが浮かぶと。中学生になってできた友達が通り魔に襲われるかもしれないと、オレへ訴えてくる。
信じ切れないながらも、るりの友達を助ける為に……るりを安心させる為に協力しようと決めた。
ひ弱な体では、犯人を捕まえられないかもしれない。体を鍛え、容姿も変えた。黒髪だったのを赤茶色に染め、中学に上がる頃にはピアスも付けた。何と言うか……張りぼてだ。少しでも強そうに見せた方がいいと思った。
そして、ついに。その日が訪れる。「彼女」の後をつけていた犯人の前に出る。「彼女」の足音が遠ざかる。日没後の、暗い道の途中で。犯人と向き合う。
「彼女」を害そうとしていたのは、「彼女」のクラスメイトだった。るりとも同じクラスだ。
そいつはブツブツと……「ほかの男を選ぶなんて許さない」とか、言ってたっけな。今後「彼女」に近付かないように「あいつは、オレの女だ」と、脅しておいた。近くに隠れて聞いていたるりに「そ、そうなんだね」と言われた。誤解されたのかもしれない。しかし、弁解の機会は得られなかった。後日、オレの方が悪者に仕立て上げられていたからだ。
腕を上げる為に売られた喧嘩を買い続けていたのも、よくなかったのだろう。オレの方が捕まってしまった。
「彼女」は、るりが「彼女」の為に望んだ願いを知らない。
後の……今の人生では、るりに記憶はなさそうだった。それでよかったのかもしれない。不安なく生きてほしい。その為にも「彼女」は、オレが護るから。
もう一度、覚悟を決める。
溜めていた息を吐き出す。
この人生での「彼女」は、今までと少し違う気がする。前の人生を振り返って思う。
今回の「彼女」が「魔法」による対決を制し、自ら打ち勝ったのを見届ける。
姿の見えなくなった「彼女」のお兄さんについては申し訳ないが思う。
「やっと守れた。……約束を守ったよ。るりちゃん」
幼馴染だった彼女の為に。
弱い心をハッタリの強さで覆い隠し、自分を変えた。
大事な約束を、胸に抱えている。
見上げた空は、今までで一番明るく……沁みた。
◆◆◆ 7 ③ 居所 ◆◆◆
拓馬や仁も含め……全員、志望する高校に合格した。
ある日。街角でたまたま、拓馬と桃井野が歩いているのを目にする。…………二人は、手を繋いでいる。
えっ……?
仲睦まじい後ろ姿を凝視する。彼らは、オレの視線にも気付かずに去った。拓馬の、何とも言えない嬉しそうな表情を……もう一度、脳裏に浮かべる。
拓馬の好きな人は……もしかして。桃井野だったのか?
思い至る。
前世で聞いた拓馬の好きな人の話は……桃井野の事だったんだ。
勘違いしていた。紫織を誤解していた。
きっと、こんなオレだから。…………彼女の一番になれなかった。
紫織は、お兄さんを一番大切に想っているのだと……痛い程に感じている。
オレは彼女のお兄さんに、一生……敵わないのか?
複雑な心持ちになっていた頃。突如、お兄さんの居場所が判明する。
オレだけが分かった。誰も、まだ気付いていない。紫織も。
だから、秘密にする。
お兄さんの姿は見えないが……頭の中に、彼の声が響くのだ。聞こえているのは、オレだけのようだった。
「やあ。多一君。紫織の逆ハーレム計画を、阻止してくれてありがとう。紫織の知らない所では、逆ハーレムをコンプリートできていたみたいだけど……まぁ許そう」
「お兄さんも、きっちり約束を守ってくれたんですよね? わざわざ彼女を『家』の『外』に連れ出したくらいですからね?」
『家では手を出さない』約束だった。お兄さんは、悪びれもせずに言ってくる。
「ああ。バレてた? 手を出したの。別にいいよな? どうせ、お前の勝ちなんだから」
「それは……どうなんですかね?」
そうは思えなかった。多分、彼女は一生……お兄さんを忘れないだろう。
隣に紫織がいるから、実際には声を出さずに思考で会話している。
気になっている件を確認する。
「……いつまで、いるんですか?」
「ああ……いつまでだろうな……」
返答に一瞬、気が遠くなる。
お兄さんにも分からないだと? 冗談じゃない。
くっそ……! まさか、このままずっと……こんな感じ……な訳、ないよな? 誰か、違うと言ってくれ。オレは一生、お兄さんと生きていかなきゃいけないのか?
ゾッとする。
嫌だ、絶対に。
ライバルだった人が、永遠のライバルに進化したように……クソ煩わしい。
お兄さんが伝えてくる。
「……言うの忘れてたけど。考えた事も全部、聞こえてるよ?」
それから、お兄さんは……オレの中に居座った。いつまでいるのだろう。もしかして……紫織との結婚後も?
時々……思考に聞こえる声のみで、じゃんけんする。勝った方が体を数時間、動かせる条件で。全然譲らない日が続くと、お兄さんがうるさくて厄介だからだ。
「紫織が悲しそうにしてる! オレの事を思い出しているに違いない。多一君、代わってくれ。ここは彼女の想い人である本人が、慰めるべきだろう」
「は? 寝言は寝てる時に言うもんですよね? 今、この世に生きているのはオレです。彼女の婚約者はオレです。死んだお兄さんは引っ込んでてください」
「まだ死んだとは、決まってねーんだけど……」
彼女の側で秘密裏に、お兄さんといがみ合う日々を送っている。
