13年後に再会した幼馴染と愛され生活始めます。
 どちらからも話さず、車内は音楽が静かに流れているだけだった。
 夕食に誘われたが、それまでの予定は聞いていない。
 どうするつもりなのだろうと思いつつ、海堂に全てを委ねることにした。
 すると三十分ほどかけて移動し、行きつけだというブティックの前に車を停めた。

「その服、サイズが合っていないな」
「取り急ぎ、賢吾が買って来てくれたんです。きっと、あいつの趣味ですよ」
 笑って言ったが海堂の表情は無のままだった。
「その色、似合ってない」
 余計な一言を放ち、店内へと促す。
(似合ってないのは自分でも分かってる)喉まで出た言葉を飲み込んだ。
 なんだって私に対して正論という名の暴言を吐かれなくてはいけないのか……。
 そう思いながらも、間違っていないので反論できない。

 ガラス張りの店は清楚で洗練されたデザインの服が並べられている。どれも海堂に似合いそうだ。
 店内の半分がメンズ、もう半分がレディス。
 海堂は迷わずレディスの服を見始める。
 誰かにプレゼントする服を、一緒に選んで欲しいということだったのか。それならそうと言ってくれれば良かったのに。
 しかしその人がどんなタイプなのかも知らないから美澪には選びようがなかった。仕方なく海堂の側を離れずについて回った。

 美澪はもう一年は服を買っていない気がした。
 仕事に追われる日々に、オシャレな服なんて買っても着る時間はない。買い足すのはせいぜいパンプスやストッキングくらいなものだ。
 気になった服をチラリと出しては戻す。どれも可愛らしい。

「気に入ったのはあったか?」
「私ですか? どれも可愛いですね。見てるだけで良い刺激になります」
「そうじゃなくて。欲しい服はあったかと聞いている」
「こんな高級な服、買えませんよ。ファストファッションで充分です。それより、誰かにプレゼントするものを探しに来たんじゃないんですか?」
「だから、それが美澪だってことだろう。じゃなきゃ、連れて来たりしない」
「私? なんで……」
「俺とのデートに、他の男がプレゼントした服を着られるなんて耐えられないからだ」
「賢吾ですよ? 先生だって会ったじゃないですか」
「今はプライベートだ。先生と呼ぶのはやめてくれ」
「じゃあ……海堂さん?」
「蒼士だ。海堂蒼士。歳は美澪と同じ。だから呼び捨てでいい」

 そんなことを言われても……美澪にとって、先生は先生だ。まだ正体も明かしてもらってないし、いきなり呼び捨てなんて出来るわけない。

 海堂は本当に賢吾からもらった服を来ているのが嫌らしく、「じゃあ、私に似合うと思う服を選んでください」と言うと本当に全身選んでくれた。
 体に程よく沿うニットのロングワンピースに華奢なチェーンのネックレス、低めのヒールのパンプス。
 試着室で着替え、思わず自分に見入ってしまった。見窄らしさが消え、これなら海堂の隣に立っても自然だと思える……かもしれない。

「どう……ですか?」
 試着室の扉を開けると、海堂が「良く似合っている」と、ふわりと笑った。
 あれ……と思った。笑った口中に八重歯が覗く。この笑顔を知っている気がした。でも、思い出せない。ただ、誰かに似ているだけかもしれない。

 海堂は店員に「あれをそのまま買い取る」と言い、さっさと会計を済ませてしまった。
「自分で払います……」ボーナスの何割かが消えそうだと思ったが、海堂に奢られる理由がない。
 海堂はさっきデートだと言ったが、たった一回のデートのために彼女でもない美澪に服を全身プレゼントなんてするものなのか。全く、御曹司の考えは理解に困る。

 しかし海堂は「甘える術を覚えろ」と重ねて言い、美澪の髪にリボンのヘアアクセサリーを付けてくれた。
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