完璧美人の私が恋したのは、眼鏡オタクのSEでした
 その日の夕方。
 優希は、会議室で上司に報告をしていた。

 「現時点で、
  重大な問題は確認されませんでした」

 淡々とした口調。
 だが、続く言葉は慎重だった。

 「ただし——
  全体的に、システムがかなり古いです」

 タブレットを操作しながら、画面を示す。

 「サーバー、社内ネットワーク、
  クライアントPC、いずれも
 “当時の基準”では問題なかった構成です」

 ひと呼吸置いてから、続ける。

 「ですが、
  最新のウイルスや標的型攻撃に対しては、
  正直……心許ない」

 上司が、眉をひそめた。

 「意識の面でも、
  社員のセキュリティ意識が
  全体的に低いです」

 USB等のメディア。
 データの扱い。
 軽い気の緩み。
 それらを、
 優希は、あえて具体的には言わなかった。

 「今すぐ危険、
  というわけではありませんが」
 「“狙われた場合”、
  防ぎきれるとは言えない状況です」

 静かな沈黙。

 「ですので、
  段階的に改善と対策を
  進めるべきだと考えます」

 優希は、視線を上げた。

 「具体的な改善案、必要な費用、
  導入までの期間——」

 きっぱりと言う。

 「こちらで算出します」
 「できるだけ、
  業務に支障が出ない形で」

 上司は、
 しばらく考え込んだあと、頷いた。

 「……頼む」
 「はい」

 会議室を出た優希は、
 廊下を歩きながら、
 小さく息を吐いた。
 (……今は、
  何も起きていない)

 でも。
 (“何も起きていない”だけだ)

 優希の胸に、
 言葉にできない違和感が、
 静かに残っていた。
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