前世で死に別れた忍者に、現代で溺愛婚を申し込まれました

エピローグ 一年後 side 忍

 初音と結婚してから一年後――。

 俺は何度もスマートフォンの画面を確認していた。
 初音のメッセージが来ていないか確認しているが、彼女からの返事はまだ来ない。

 ――大丈夫だったか?

 そうメッセージを送ろうとして、やめた。
 五分前にもしたばかりだからだ。
 車で急いで家に向かっているところだが、やはり心配なものは心配なんだ。

「社長」
「なんだ」
「渋滞に巻き込まれました」
「――は?」
「初音さんに少し遅くなると連絡してみたらいかがですか?」

(人が急いでいるときに……!)

 どうして道が混んでいるんだ。

「走るか、若林」
「十キロ爆走する気ですか。落ち着いてください」
「落ち着いていられるわけがないだろう! 今日は――!」

 若林に怒鳴っていると、ピコンとスマートフォンからメッセージが届く。初音からだ。俺は食い入るようにそのメッセージを見た。

 ――産婦人科に行ってきました。今、八週目だそうです。

 そう控えめな言葉と共に、エコー写真が送信される。
 黒い胎内の中に、ぼんやりと小さな丸い命がうつっている。
 それを信じられない気持ちで見ていると、初音からメッセージがまた届いた。

 ――忍さん、赤ちゃん、いましたよ。

 にっこり笑顔のマークが語尾に付いていて、それを見た瞬間、目の奥が熱く痛くなった。思わずスマートフォンを固く握りしめ、額につけて目を固くつぶる。息を震わせながら、こみあげる思いをなんと返そうか考えた。
 だが、何も出てこない。熱い涙がこぼそうになるばかりだ。

「社長、返事あったんですか?」

 若林がいつもの調子で尋ねる。それに「ああ」とかすれ声で返事した。

「よかったですね。おめでとうございます」

 少しだけ柔らかい声で、若林はそう言った。

 
 結局、初音には「お疲れ様、すぐ帰る」とだけ返事をして、家に着いた。まだ感極まる心が落ち着けないまま、だが、早く彼女に会いたくて足を早める。
 家に着くと、初音が微笑みながら待っていた。
 瞳が潤んでいる。
 もしかしたら、初音も俺と同じ気持ちなのかもしれない。
 
 彼女を見た瞬間、俺は彼女のそばにより、新しい家族と共に抱きしめた。
 
 体温が、確かに腕の中にあった。

 やっと、この時がきた――。

 そう思った。

 家族を抱きしめながら、俺は涙の向こうに景虎の姿を見た――――。

 

 ――――景虎は君主の命じられるまま、戦い抜いた。
 そして、すべてが終わる頃、ひとりで雅姫の姿を探した。
 崖の下を探し回り、ようやく雅姫の姿を見つけた。
 
 雅姫の体は、苔むして自然に還っていた。
 彼女に贈った鈴が錆びて音を出さなくなったのを見た瞬間、景虎は己を呪った。
 
 なぜ、誰にも看取られず、彼女はここで眠らねばならなかったのか。彼女は、こんな結末のために生まれてきたわけではない。
 雅姫の前で熱い涙を流しながら、それでも景虎は自分がやったことを報告する。
 
「姫様、戦は起こりませんでした。あなたが命を賭けて、民を守ったんです」
 
 報告を終え、もういいだろうと景虎は思った。
 役目は終えた――と。

「姫様、私の体もあなたのそばにいかせてください」

 魂は彼女に差し出した。
 ここにあるのは抜け殻となった体だけだ。
 
 緑に染まった彼女を抱きしめ、次こそ彼女と共にありたいと願う。

 再び輪廻の中で出会えたのなら、そのときは、自分のすべてを駆けて彼女を生かそう。
 
 そう誓いを立て、景虎は自分に向けて脇差を振るい上げた――――。


 ――――そして今。
 再び出会った彼女は、俺の腕の中にいる。
 小さな命をその身に宿して、確かな鼓動を打っていた。
 
 こんなにも幸せなことがあるだろうか。

 景虎と共に俺は、熱い涙を流す。
 声なき声をあげ続ける景虎を感じながら、かつての自分に語りかけた。
 
 ――景虎、安心しろ。これが本当の結末だ。
 
 お前の後悔を抱き込んでなお、俺は家族を守ろう。

 ここはお前がつないだ未来だ。
 だから、俺たちは幸せになると約束しよう。

 そっと彼女から離れ、もう一度、その顔を見つめた。
 涙越しに微笑みが見え、俺も微笑みながら胸のうちを言葉にした。

「……俺は幸せだ。ありがとう」

 そう心から告げると、最愛の人は目を細めて、満面の笑みを見せてくれた。



 (完)
< 36 / 36 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:11

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop