冷徹CEOと、一夜から始まる溺愛契約
タクシーの窓から、夜の東京が流れていく。街灯の光が、落葉した街路樹を照らしている。
彼は私の隣に座り、ずっと私の手を握っていた。その手は、驚くほど温かい。
やがて、タクシーが高級ホテルの正面玄関に停まった。見上げるほど高いビル。きらめくエントランス。
こんな場所、今の私には縁のない世界。
男性が私の手を取り、エスコートしてくれる。
「お帰りなさいませ」
ドアマンが深々と頭を下げる。まるで王族を迎えるような恭しさ。
「いつものスイートルームを」
「かしこまりました」
いつもの、という言葉に胸がちくりと痛んだ。この人は、こういうことに慣れているんだ。
今夜だけは、それでもいい。明日になれば、すべて忘れる約束なのだから。
専用のエレベーターで最上階へ。扉が閉まると、静寂が二人を包んだ。
彼の手は、私の手をしっかりと握っている。
「怖いなら、今すぐ言え。まだ引き返せる」
掠れた声で囁かれて、顔を上げる。
彼の眼差しは、さっきまでの冷たさとは違っていた。どこか、切なそうで。
「怖くない。あなたとなら」
なぜ、そう言い切れたのか、自分でもわからない。けれど、嘘ではなかった。
この人は、私を傷つけない。根拠のない確信が、胸の奥にあった。
エレベーターが最上階に着く。一番奥の部屋へ。鍵が開けられ、私たちは中に入った。