恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで【完】
「こちらこそ、わざわざ来てくださってありがとうございます。来海からお話は伺っていましたよ。とても素敵な方とお付き合いしているって」

 母親が柔らかく微笑むと、続けて父親が穏やかに問いかける。

「それで、今日はどんな話かな?」

 その一言で、部屋の空気がわずかに引き締まった。

 充輝は一瞬だけ視線を落とすとすぐに決意を固めるように立ち上がり、

「突然のお話で驚かれるかもしれませんが――」

 そして、深く頭を下げた。

「来海さんと、結婚させてください」

 静かな部屋に、その言葉がはっきりと響く。

 来海は隣で、その横顔を見つめていた。

 真っ直ぐで誠実なその姿に胸の奥がじんわりと熱くなる。

 やがて父親の落ち着いた声が返ってきた。

「充輝くん、顔を上げて座りなさい」

 促されるままに顔を上げた充輝は椅子に座るものの、その表情はまだ緊張したまま。

 父親は暫く彼を見つめ、それからゆっくりと頷く。

「君のような青年が娘の相手であることを嬉しく思うよ。来海は私たちの大切な娘だ。君になら任せられると直感した。来海を、よろしく頼みます」

 その言葉に充輝は目を見開くとすぐに深く頭を下げた。

「ありがとうございます……! 必ず、幸せにします」

 隣では来海が思わず息をつき、安堵したように笑う。

「来海、良かったわね」

 母親が優しく声をかけると来海は少し照れくさそうに頷いた。

「うん……ありがとう」

 その後は空気も和らぎ、四人で食卓を囲むことになった。

 初めこそ緊張でぎこちなかった充輝も時間が経つにつれて少しずつ表情が解れていき、帰る頃には両親と打ち解けることが出来た。
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