とある仙女の回顧録


 私はもう大丈夫だから。
 兄は人の世に戻るなり、天界で仙人になるなり、自分の道を選ぶこともできたのに。普段勇敢で優しい兄は、恋にはめっきり臆病だったのでございます。
 それとも、兄に愛の言葉を告げながら、相手にされないと知るや人の世に戻る女性たちと同じだと、端から諦めていたのでしょうか。

 とはいえ、美羽蘭のめげない告白攻撃は止むことがないように思えました。
 その根性と微笑ましさに天界では、「劉帆がいつ美羽蘭に落ちるか」などという賭けも行われてましたので、私も兄に余計な口出しはできません。それによって賭けに負けた者が文句を言うのは目に見えてますでしょう?
 でも、賭けの内容は「いつ」なのであって、「成就するか否か」ではありません。二人が結ばれる日のことを、皆心躍らせながら見守っていたのでございます。
 楽しい日々でした。


 そんなある日。

「私は、人の世に戻ろうと思います」

 主様のもとで美羽蘭がきっぱりと申し出たのは、風の強い日のことでした。

「兄様はそれを……?」

 動揺し、主様のおそばでオロオロとそう尋ねる私に、他の仙女はおろか、主様さえも頷いております。ですが美羽蘭は「はい、もう伝えました」と言うではありませんか。

「まさか、そんな」
「いえ、本当です」
「兄はなんと?」
「そうかと、それだけ」
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