とある仙女の回顧録
人の世に戻れば全て忘れ、新しい人生が始まります。
私はどうしても彼女が気になって、常に人の世を覗くようになりました。天界のものは人の世にそうそう干渉することはできません。ましてや一仙女程度では、覗き見するのがせいぜい。
悲しいことに、彼女は何度生まれ変わろうとも非業の死を遂げました。
ある時は病に倒れ、ある時は戦に巻き込まれ。またある時は、彼女に執着するものの手で……。
二十一年。その年でさえ越すことが出来ないのです。
私がこっそり授けた護りの力さえ、呪われたかのように役に立たない始末。
ですが彼女は朱桃庵を訪れることはございませんでした。いえ。実は一度だけ、迷った魂を連れてきたことがございますので、彼女の中にここの記憶が残っているやもしれません。ですが兄にその魂を預け一瞬だけ何か呟くと、何事もなかったよう輪廻に戻り――そして今もまた、人の世に戻っていこうとしています。
ついに私が兄を叱咤しようとした矢先、兄は私に「人の世に戻ろうと思う」と言いました。ようよう考え、ついに観念したのでしょうか。
「人の世に戻っても、彼女に会えるとは限りません」
記憶はすべて消えます。稀に私のような例外もありますが。
それに今のようにバラバラに戻ったところで、彼女と会えるかどうかも分からず、ましてや結ばれる確率は限りなく無に等しいのです。
もしもう一度彼女が天界に来るのを待って、その上で縁を結んでおいたなら別ですが。
「もう私は、彼女の痛ましい死を見ることに耐えられないんだ」
そう言った兄は、自分の後を任せることができる者ができたからと小さく笑いました。もう一秒も待てないのだと。そしてばつが悪そうに、
「同じ町に生まれさせることぐらいは可能だろう?」
と、手を合わせます。
「ええ。昔より力を付けました故、それくらいはできます」
依怙贔屓ですけどね。
「ありがたい。申し訳ないが頼むよ。たとえ記憶を無くそうとも、私は必ず彼女を見つけ守る。そして二十一回目の春も、三十回目の春も、その先もずっと見せてやるんだ」
「一緒にでございますか?」
冷ややかになった私の目に兄は苦笑して、「善処する」と言いました。
腰抜けにもほどがありますが、やっとその気になったのです。
人の世に戻った兄は、彼女と同じ町に生まれます。
この後どうなるかは彼ら次第。
仙女たちが久しぶりに、賭けの再開をしようと華やいだ声をあげました。


