愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

プロローグ

 ファーブル王国の王宮では、国王も参加する大規模なパーティーが開かれていた。

 会場の真ん中で、この国の第一王子であるセドリックが伯爵令嬢コレットの腰を抱いている。セドリックがビシッと指差した先にいるのは、婚約者である侯爵令嬢カトリーヌだ。

 カトリーヌに向けているセドリックの瞳には、嫌悪や蔑み、愉悦が滲んでいた。

「カトリーヌ、今この時を持ってお前との婚約は破棄する!」

 意気揚々と告げたセドリックは、さらにコレットの腰を抱く腕に力を入れた。

「私に隠し事はできんぞ。貴様の所業は全て分かっているのだ! 私の寵愛を受けているコレットを妬むなど、王妃として相応しくない! 元はと言えば、お前に可愛げがないのが悪いのだ。婚約者のくせに私を満足させるどころかイラつかせるばかり、そんなお前を許容してやってる私が他の女に目を向けたら醜い嫉妬。一国の王となる私が側室を持つのは当然のことだ。今からコレットを妬んでいるようなお前に、私の隣に立つ資格はない!」

 言い切ったセドリックは、気持ちよさそうに口角をあげると、どこか勝ち誇ったようにカトリーヌを見下した。

 大勢の貴族や国王までいるパーティーの場で婚約破棄を突きつけられたカトリーヌは、取り乱したりショックを受けて――いる様子はない。

 何か別のことに意識を取られているような、緊張しているような、そんな様子だ。

 僅かに震えている両手をギュッと握り締めて、カトリーヌは口を開いた。

「セドリック殿下、わたしが何をしたというのでしょう……?」

 おそらく緊張から、僅かに声が震えている。

 そんなカトリーヌの様子を見て、セドリックは婚約破棄を突きつけられたことがショックだったのだろうと受け取ったらしい。

 ニッと笑みの形に口元を歪めると、楽しさを隠せないように言った。

「はっ、しらを切るつもりか! そんなもの私には通用しないぞ! 貴様がコレットのドレスを破り捨てたことも、階段から突き落とそうとしたことも、全て把握しているのだ。大人しそうな顔をして、そんな陰湿な嫌がらせをするとはな。こうなっては、いくら父上が決められた婚約者とはいえ私に適さない! 貴様が拒んでも婚約は破棄だ!」

 会場中に響く声で叫んだセドリックは、隣に並ぶコレットに笑いかける。カトリーヌに向けているものとは全く違う柔らかい声音で、確認するように問いかけた。

「そうだな、コレット?」

 カトリーヌが冒した罪の同意を得ようとしたセドリックに、コレットは首を傾げながら告げる。

「セドリック殿下、何を仰っているのですか?」

 予想外な言葉が返ってきたのだろう。セドリックは目を見張った。

 パーティー会場は沈黙に包まれる。

「き、君こそ何を言ってるんだ? コレットが傷つけられた話だろう?」

 焦るセドリックに、コレットは今度こそ頷いた。

「確かに、先ほど殿下が仰った嫌がらせをされました」
「そ、そうだよな」

 コレットが頷いたことにホッとした様子のセドリックだ。しかしそんなセドリックをまた混乱と焦りの渦に落とすように、コレットははっきりと言った。

「しかし、その嫌がらせにカトリーヌ様は関係ありません」

 その言葉は、会場中に響く。

「は?」

 セドリックは間抜けな声を上げた。

「私はカトリーヌ様のお名前など一度も出しておりません」
「なっ……」

 慌てて過去を思い出すように視線を彷徨わせているセドリックは、コレットの指摘が正しいと判断できたのかもしれない。

 唇をキツく噛み締めてから、ヤケになったように叫んだ。

「しかしっ、カトリーヌがコレットを妬んでるのは確実だ! 分かった、コレットが勘違いをしているんだ。カトリーヌは嫌がらせに関わっているに違いない。もしかしたら、カトリーヌが黒幕かもしれないぞ。あいつは悪知恵が働きそうだからな!」

 なんの根拠もないことを次から次へと口にし始めた。

「カトリーヌ、貴様が裏で糸を引いてたんだろ! 全てを白状しろ!」

 根拠のない推測から、カトリーヌに詰め寄る始末だ。
 しかし、セドリックがここまで慌てるのも仕方がないだろう。

 なぜなら、今回のパーティーは国王すら参加している公的なもの。そんな場で、勘違いによる冤罪によって婚約者に婚約破棄を突きつけるなど、さすがに王子とはいえ許されない所業なのだ。

 クズ王子と陰で言われることもあるセドリックでさえ、さすがにそれは理解できているらしい。

 ひたすら慌てるセドリックに、コレットが告げる。

「殿下、その可能性はありません」

 先ほどから表情をあまり変化させていなかったコレットだが、誰にも気づかれない一瞬だけ、ほんの僅かに口角を上げた。

「私は犯人を捕まえようと、証拠を集めておりました。必要な証拠はほとんど揃っていますが、カトリーヌ様の関与は一切ございません」
「なっ……」

 完全に二の句を継げなくなったセドリックから、コレットはさりげなく距離を取る。

 そして、どこか祈るように二人のやりとりを見守っていたカトリーヌに視線を向けた。カトリーヌもコレットをじっと見つめていて、二人の視線が絡まる。

 その瞬間、コレットが僅かに目を細めた。カトリーヌも少しだけ瞳の力を強くする。

 カトリーヌとコレット、全く毛色の違う二人の令嬢なのだが――実は親友であることを、ほとんどの者は知らない。
< 1 / 11 >

この作品をシェア

pagetop