愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

20、驚きの発見と成果と魔道具の試作

「何か変化があったようだ」

 エルベルトはあまり大事だと認識していないようだが、カトリーヌにとっては叫んでいないことが奇跡というほどの大事件だった。

「エ、エネルギー量を確認してみます!」

 先ほどと同じ測定器に入れると、その値は。

「せ、千を超えてる……」

 この小さな魔鉱石でエネルギー量が千というのは信じられないことだ。千ものエネルギーを内包する魔鉱石は、両手でも抱え持つことができないほどの大きさでなければあり得なかった。

 しかし、そんなに巨大な魔鉱石が必要な魔道具など、使い勝手が悪すぎて現実的ではない。なぜならそんなにも大きな魔鉱石は、人が何人集まっても持ち上がらないほどに重いのだ。

 道具を使って人を集めれば運ぶことは不可能ではないが、そこまでして千のエネルギーを使う魔道具など作っても意味がない。
 もし千のエネルギーがあれば竜族たちが使うような強大な魔法が放てるのであれば、魔道具を動かさない想定で防御目的として使われていたかもしれないが、千というのはそこまでの威力にはならないのだ。

 エルベルトがメタルベアを倒した時のような魔法には、数千のエネルギーが必要となる。千ではスモールボアに対応できるぐらいだ。そして数千のエネルギーを持つ魔鉱石など、より現実的ではない。

「これは凄いのか?」

 首を傾げたエルベルトに、カトリーヌは僅かに手を振るわせながら告げた。

「凄いなんてものではありませんっ。わたしは、目の前の数字が信じられないです……!」

 小さな魔鉱石で千エネルギーを内包できるのならば、もう少し大きな魔鉱石は万のエネルギーを内包できるかもしれないのだ。

 そうなれば、魔道具にはまさに革命が起きる。

 竜族の魔法に近いことが、普通に持ち運べる大きさの魔道具でできるようになるのだ。

「エルベルト様、妹さんの生きづらさは解消すると思います!」

 興奮しながらエルベルトを見上げたカトリーヌの瞳は、キラキラと輝いていた。

 カトリーヌにしては珍しいその表情に、エルベルトは一瞬だけ見惚れたように固まり、すぐ我に返った様子で横を向いて一つ咳払いをする。

 カトリーヌに向き直り、嬉しそうに口角を上げた。

「やったな」
「はい!」

 それからの二人は夢中で検証を進めた。まずカトリーヌは、金色となったその魔鉱石が本当に使えるのかを検証した。
 すると問題なく魔道具のエネルギー源として使うことができた。しかし魔力の変換効率が今まで通りの方法では上がらず、そこは要検証である。

 また、さらに魔力を注ぎ込むことでエネルギー量が増えるのではないかという検証も行い、それによって小さな魔鉱石には三千に近いエネルギーが入ることが分かった。エルベルト曰く、そこで容量が満たされた感覚があったそうだ。

 それからエネルギーを使い終わった魔鉱石にも、エルベルトに魔力を注いでもらった。今まで使い終わった魔鉱石は処分するしかなかったのだが、再利用ができるということになればこれもまた革命である。

 エルベルトが魔力を注ぐと――。

「わぁぁ」

 内包していたエネルギーがなくなったことによって黒ずんでいた魔鉱石が、すぐに金色に光り輝いた。カトリーヌは興奮しすぎて、倒れそうなほどに頬を紅潮させている。

「凄いです!」

 そんなカトリーヌに少し苦笑しつつも、エルベルトもとても楽しそうだ。

「こちらにも普通に魔力が入ったな。ただ少し感覚が違った」
「では、まずエネルギー量を測定してみます」

 測定の結果、使用済みとなった魔鉱石に魔力を注いだ方が、エネルギー量が少なくなることが分かった。とはいえ、魔鉱石の大きさから元々内包されていただろうエネルギー量を推測して比較すると、その十倍以上にはなる。

 つまり、使用済みの魔鉱石を再利用できるということだ。

「使用済みの方が低いですが、どちらも信じられない量のエネルギーを内包できることに変わりはないです」
「できれば使用前の魔鉱石に魔力を注いだ方がいいということだな」
「はい。特に妹さんのための魔道具を作る時には、そうしましょう」
「そうだな。助かる」

 それからは主に魔力を注いだ魔鉱石のエネルギー変換効率を上げるための研究を行い、カトリーヌの中で方向性と少しのコツが見えてきたところで、一つの魔道具を完成させてみた。

 片手で持てる大きさの魔道具なのだが、中には魔力を注いでエネルギー量が万を超えている魔鉱石が入っており、引き起こされる現象は人が宙に浮かぶほどの強風だ。

 今までの魔鉱石でこの設定にしたら、確実にエネルギー不足で発動しなかった。

「これを試しに使ってみたいです」

 カトリーヌの言葉に、エルベルトが頷きながら魔道具を手に持つ。

「俺が試してみよう。カトリーヌでは危なすぎる」

 危険を伴う作業をエルベルトに頼むことに抵抗感を覚えたカトリーヌだが、自分が試すのはさすがに無理があると分かっていたので、エルベルトに頼むことを決めた。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 護衛のラースやリンに頼むことも考えたのだが、一番に使う可能性が高いのがエルベルトの妹なので、エルベルトも自ら危険性などを判断したいだろうと考えたのもある。

 二人は共に屋敷の裏庭に向かい、目立たない場所でエルベルトが魔道具を装着した。

 今回の魔道具は今までにない形状にしていて、靴裏に装着する形だ。ボタンを押し込んでから五秒後に強風が真下に向かって吹き出し、人が上に浮かぶという理論である。

「では、試してみる」
「はい。お願いします」

 カトリーヌは離れたところから見守り、エルベルトは真剣な表情でしゃがみ込むと、両足の魔道具のスイッチを入れた。

 魔道具はきっかり五秒後に発動したが――。

「うおっ」

 エルベルトは体勢を崩して真上ではなく違う方向に飛び、自らの魔法で風を起こしてなんとか安全に着地した。

「エルベルト様っ!」

 カトリーヌが慌てて駆け寄ると、エルベルトは問題ないというように笑みを浮かべる。そして魔道具を靴から外して、的確な感想を述べた。

「これは改良すれば普通に使える魔道具になりそうだ。しかし、スイッチを入れるタイミングが左右で少しズレるだけで、真上に飛べなくなる。二つの魔道具を連動させた方がいいな。スイッチを一つにできたら一番いい。それから俺は風で飛ぶことに慣れているから最初から問題なく飛び上がれるが、慣れてない者は酷い怪我に繋がる危険性もあるだろう。最初は弱い威力から慎重に慣れていくべきだな」

 とても有用な意見を、カトリーヌは持参していたメモ帳にスラスラと書き込んだ。改良点がたくさんあるのは大変なのだが、カトリーヌの口角は上がっている。

「とても助かります。妹さん向けの魔道具を作る時には、いくつか段階を分けて作るべきですね」
「そうしてもらえるとありがたい。それから今回の形だと段差を飛び上がるのにはいいが、継続して風魔法を使って移動したいときなどは、ボタンが手元にあるといいかもしれない。一度しか発動させない時でも、その方が便利だろう」
「確かに……かしこまりました」

 それからもカトリーヌは、改善すべき点をエルベルトから細かく聞いた。

 魔鉱石のエネルギー量を増やすには竜族の持つ魔力が必要なので、今のところカトリーヌはエルベルトの妹向けの魔道具を全力で考えるつもりだ。

 もし金の魔鉱石を定期的に手に入れられるようになるならば、それを使った魔道具を開発して騎士団などの安全性を上げたいが、竜族の魔力が必須なため簡単にはいかないだろう。

(エルベルト様がいらっしゃる時に、たくさん研究をさせてもらえたら嬉しいわ)

 それからは外でできる微調整をしつつ何度かエルベルトが宙を飛び、最後にまっすぐ上に飛べたところで研究室に戻ることになった。
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