愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
19、二人での魔道具研究開始!
エルベルトが侯爵家の屋敷に来た翌日。
さっそくカトリーヌはエルベルトと共に、屋敷内にある魔道具研究室にいた。竜族の持つ特別な力――魔法の研究もするということで、呼べばすぐに護衛が駆けつける形になっているが、室内には二人きりだ。
「エルベルト様、改めてよろしくお願いいたします」
昨日のコレットのせいで少しだけ恥ずかしい気持ちが湧き上がってくるが、カトリーヌはそれを押さえ込んで冷静に努めた。
「こちらこそよろしく頼む」
エルベルトが気まずい空気を作らずに爽やかな笑みを浮かべたので、カトリーヌはホッとする。
安心できると今度は、竜族の持つ魔力や魔法を研究できることに、ワクワクとした気持ちが湧き上がった。エルベルトも人間の街を訪れた目的が魔道具だっただけあり、瞳には期待の色が滲んでいる。
二人の意識が完全に魔道具へと向いたところで、エルベルトがぐるりと室内を見回した。
「随分と色々なものが置かれているのだな」
研究室の中は雑多な雰囲気だ。棚にはたくさんの資料が詰め込まれていて、魔道具の素材となるものがそこかしこに保管されている。素人が見ただけでは何か分からないものが大量に詰まった木箱なども、いくつも床に置かれていた。
カトリーヌは基本的に真面目でしっかりとした性格なのだが、魔道具製作となると時間を忘れて没頭してしまうこともあり、研究室内が荒れることもしばしばなのだ。
希少で高価なものや、扱いを間違えたら壊れたりダメになってしまうものも多くあるため、カトリーヌが研究室内の掃除は自分でやっているというのも大きな理由の一つである。
「雑然としていて申し訳ございません」
「いや、問題ない。むしろ色々と気になって見て回りたい気分だ」
「そうしていただいても構わないのですが……中には危険なものもありますので、わたしが順に説明する形でもよろしいでしょうか」
万が一にもエルベルトが怪我などをしてしまったら大変だ。カトリーヌの要望に、エルベルトはすぐに頷いた。
「もちろん構わない。よろしく頼む」
「ありがとうございます。では、そちらの椅子をお使いください」
勧めた椅子にエルベルトが腰掛けたところで、カトリーヌは壁際の棚に向かった。そこには資料というよりも、素材や魔道具が主に置かれている。
まずは基礎的な説明からしようと思い、必要なものを選んで腕に抱えると、部屋の真ん中にある作業台に並べていった。
作業台の上は比較的すっきりとしていて、よく磨かれた器具がたくさん並んでいることと、端に積み上げられた紙束ぐらいしか物はない。必要なものを全て並べたところで、カトリーヌもいつも使っている椅子に腰掛けた。
「お待たせいたしました。ではさっそく、魔道具の説明から始めます」
少し前のめりになっているエルベルトに嬉しく思いながら、カトリーヌはまず魔鉱石を手のひらで示した。
「こちらが魔鉱石です。竜族の皆様の間ではどのような扱いとなっているのでしょうか」
魔鉱石とは大小様々な鉱石で、色は銀色だ。鉱山から採取されるときには岩に混じって魔鉱石が存在しているのだが、現在テーブルの上に置かれているのは魔鉱石だけになるよう製錬されたものである。
この形になったものは、見た目から銀石と呼ばれることもある。しかし一般的には魔鉱石という呼び名のままだ。銀石は魔道具師など一部の職業の者たちにしか通じない。
「これか……俺たちは特別な扱いをしていないな。たまにこの色の鉱石が混じった石や岩を見るのだが、普通の石や岩と変わらない扱いだ」
竜族は自らが魔力というエネルギーを保持して作り出すことができると考えると、魔鉱石に興味を示さないのは当然と言えるだろう。
カトリーヌはエルベルトの答えに頷いてから、また話を続けた。
「やはりそうなのですね。しかしわたしたちにとってはとても有用なものであり、この魔鉱石が内包しているエネルギーを使用して何かの現象を起こすのが魔道具です。こちらがその魔道具の一例になります」
隣に準備していた、片腕でなんとか抱えられる程度の四角い魔道具を示す。その魔道具は比較的平べったい形であり、広い上部には円状になるように金属の突起が取り付けられていた。その円は三つあり、それぞれの近くにツマミも取り付けられている。
「これは料理を楽にする魔道具です。そのツマミを手前に引くと、円状の突起の中心部にある小さな穴から、炎が生み出されます。円状の突起の上にフライパンを置くと、簡単に料理ができる形です」
この魔道具が開発された時には、革命だと大騒ぎになったほど便利な魔道具だ。何せこれがあることで、火を起こして薪などを使いながら火を維持し、料理後も火の始末や次の料理に向けて火の管理をする――などの煩わしさが全てなくなったのだ。
魔法を使える竜族にはその便利さがいまいち理解できないだろう魔道具だが、魔法をほとんど使えない妹が料理に苦労しているのを何度も見ていたエルベルトは、この魔道具の有用性が一瞬で理解できたらしい。
「これは凄いな」
感動の面持ちで魔道具をじっと見つめる。
「魔鉱石以外には何を使って作られているんだ? どういう機構なのか、俺に理解できるだろうか」
「そうですね……完全に理解していただくのは難しいかもしれませんが、簡易的な説明ならば可能です。また使われている素材は、実はそこまで特殊なものではなくて――」
それからカトリーヌが内部構造や素材について説明すると、真剣な表情で聞いていたエルベルトは苦笑しつつ両手を上げた。
「これは、簡単に理解できるものではないな。凄い技術だ。しかし……理解していなくとも使えるのだな?」
「もちろんです。誰でも簡単に使えるのが魔道具ですから」
「本当に素晴らしい。これだけでも妹の生活は楽になるだろう」
エルベルトの妹は飲料水の確保や料理にさえ悩んでいたので、そこはこうして既存の魔道具を使うことで容易に解決するだろう。
しかし、カトリーヌとエルベルトの意識はその先に向かっていた。
「ただ、もっと楽になる可能性があるのだな」
「はい。竜族の皆様が持つ魔力を使えば、もしかしたら」
「よし、早くその研究に進もう」
「かしこまりました」
瞳を期待に煌めかせた二人は顔を見合わせて頷きあい、さっそくカトリーヌがテーブルの上に乗せていた小さな魔鉱石を手にひらに乗せる。
魔鉱石は製錬する時に規定の大きさがいくつかあり、その規定である丸型や円柱型、四角型などに作られるのだが、最後に規定サイズには届かない量の魔鉱石が余った場合、適当に冷やし固められるのだ。
それは安く売られ、魔道具の研究をする者たちが魔鉱石自体の研究をするために使う。また技術さえあれば、魔道具師が自ら成形し直して魔道具のエネルギー源として使うこともできた。
カトリーヌは魔道具の小型化を試す時に、規定サイズの魔鉱石を切り取ったりしてしまうのはなんだか忍びなく、この安い魔鉱石を成形し直して使うことがよくあった。
「まずはこの小さな魔鉱石で色々と試してみたいです」
「分かった」
エルベルトが頷いたところで、カトリーヌはその魔鉱石をエネルギー測定器に入れる。この道具は、魔鉱石が内包しているエネルギー量を示してくれるのだ。
「五十二、ですね」
規定サイズ以下の小さなものならばこの程度である。
この五十二というエネルギー量を普通に使えばそのまま数字通りのエネルギーしか扱えないが、魔道具製作の技術で変換効率を例えば二倍にすれば、百を超えるエネルギーを使えるのと同じことになる。
そのため、魔鉱石からエネルギーを抽出する際の変換効率を上げる技術は大切なのだ。魔鉱石は小さいほど保有エネルギー量も少ないので、特に小型の魔道具を作る時には技術力が要求される。
「ほう、これは面白いな。内包しているエネルギー量が数字で表されるのか。とても分かりやすい」
「はい。この数字がエルベルト様の持つ魔力によってどう変化するのか確かめてみたいのです」
魔力に影響を受けることで、エネルギー量が変わるのか、それとも変換効率に何か変化があるのか、もしくは変化がないのか。
カトリーヌはワクワクするのを抑えきれなかった。
口角が上がっているカトリーヌを見て、エルベルトも笑顔になりながら問いかける。
「どのように魔鉱石に干渉すればいい?」
「そうですね……例えばですが、魔力を魔鉱石に注ぎ込むようなことは可能なのでしょうか。わたしは魔力や魔法というものをよく理解しておらず、的確な返答ができなくて申し訳ないのですが」
「魔力を注ぎ込むのか。普段は魔法という形で放出しているからな、魔力のまま――」
しばらく腕を組んでいたエルベルトは、徐に魔鉱石へと手を伸ばした。
エルベルトが魔鉱石に触れた瞬間。
「きゃっ」
「おお」
魔鉱石がピカッと光り、銀色に輝いていたはずの魔鉱石は、目に眩しい金色になった。
さっそくカトリーヌはエルベルトと共に、屋敷内にある魔道具研究室にいた。竜族の持つ特別な力――魔法の研究もするということで、呼べばすぐに護衛が駆けつける形になっているが、室内には二人きりだ。
「エルベルト様、改めてよろしくお願いいたします」
昨日のコレットのせいで少しだけ恥ずかしい気持ちが湧き上がってくるが、カトリーヌはそれを押さえ込んで冷静に努めた。
「こちらこそよろしく頼む」
エルベルトが気まずい空気を作らずに爽やかな笑みを浮かべたので、カトリーヌはホッとする。
安心できると今度は、竜族の持つ魔力や魔法を研究できることに、ワクワクとした気持ちが湧き上がった。エルベルトも人間の街を訪れた目的が魔道具だっただけあり、瞳には期待の色が滲んでいる。
二人の意識が完全に魔道具へと向いたところで、エルベルトがぐるりと室内を見回した。
「随分と色々なものが置かれているのだな」
研究室の中は雑多な雰囲気だ。棚にはたくさんの資料が詰め込まれていて、魔道具の素材となるものがそこかしこに保管されている。素人が見ただけでは何か分からないものが大量に詰まった木箱なども、いくつも床に置かれていた。
カトリーヌは基本的に真面目でしっかりとした性格なのだが、魔道具製作となると時間を忘れて没頭してしまうこともあり、研究室内が荒れることもしばしばなのだ。
希少で高価なものや、扱いを間違えたら壊れたりダメになってしまうものも多くあるため、カトリーヌが研究室内の掃除は自分でやっているというのも大きな理由の一つである。
「雑然としていて申し訳ございません」
「いや、問題ない。むしろ色々と気になって見て回りたい気分だ」
「そうしていただいても構わないのですが……中には危険なものもありますので、わたしが順に説明する形でもよろしいでしょうか」
万が一にもエルベルトが怪我などをしてしまったら大変だ。カトリーヌの要望に、エルベルトはすぐに頷いた。
「もちろん構わない。よろしく頼む」
「ありがとうございます。では、そちらの椅子をお使いください」
勧めた椅子にエルベルトが腰掛けたところで、カトリーヌは壁際の棚に向かった。そこには資料というよりも、素材や魔道具が主に置かれている。
まずは基礎的な説明からしようと思い、必要なものを選んで腕に抱えると、部屋の真ん中にある作業台に並べていった。
作業台の上は比較的すっきりとしていて、よく磨かれた器具がたくさん並んでいることと、端に積み上げられた紙束ぐらいしか物はない。必要なものを全て並べたところで、カトリーヌもいつも使っている椅子に腰掛けた。
「お待たせいたしました。ではさっそく、魔道具の説明から始めます」
少し前のめりになっているエルベルトに嬉しく思いながら、カトリーヌはまず魔鉱石を手のひらで示した。
「こちらが魔鉱石です。竜族の皆様の間ではどのような扱いとなっているのでしょうか」
魔鉱石とは大小様々な鉱石で、色は銀色だ。鉱山から採取されるときには岩に混じって魔鉱石が存在しているのだが、現在テーブルの上に置かれているのは魔鉱石だけになるよう製錬されたものである。
この形になったものは、見た目から銀石と呼ばれることもある。しかし一般的には魔鉱石という呼び名のままだ。銀石は魔道具師など一部の職業の者たちにしか通じない。
「これか……俺たちは特別な扱いをしていないな。たまにこの色の鉱石が混じった石や岩を見るのだが、普通の石や岩と変わらない扱いだ」
竜族は自らが魔力というエネルギーを保持して作り出すことができると考えると、魔鉱石に興味を示さないのは当然と言えるだろう。
カトリーヌはエルベルトの答えに頷いてから、また話を続けた。
「やはりそうなのですね。しかしわたしたちにとってはとても有用なものであり、この魔鉱石が内包しているエネルギーを使用して何かの現象を起こすのが魔道具です。こちらがその魔道具の一例になります」
隣に準備していた、片腕でなんとか抱えられる程度の四角い魔道具を示す。その魔道具は比較的平べったい形であり、広い上部には円状になるように金属の突起が取り付けられていた。その円は三つあり、それぞれの近くにツマミも取り付けられている。
「これは料理を楽にする魔道具です。そのツマミを手前に引くと、円状の突起の中心部にある小さな穴から、炎が生み出されます。円状の突起の上にフライパンを置くと、簡単に料理ができる形です」
この魔道具が開発された時には、革命だと大騒ぎになったほど便利な魔道具だ。何せこれがあることで、火を起こして薪などを使いながら火を維持し、料理後も火の始末や次の料理に向けて火の管理をする――などの煩わしさが全てなくなったのだ。
魔法を使える竜族にはその便利さがいまいち理解できないだろう魔道具だが、魔法をほとんど使えない妹が料理に苦労しているのを何度も見ていたエルベルトは、この魔道具の有用性が一瞬で理解できたらしい。
「これは凄いな」
感動の面持ちで魔道具をじっと見つめる。
「魔鉱石以外には何を使って作られているんだ? どういう機構なのか、俺に理解できるだろうか」
「そうですね……完全に理解していただくのは難しいかもしれませんが、簡易的な説明ならば可能です。また使われている素材は、実はそこまで特殊なものではなくて――」
それからカトリーヌが内部構造や素材について説明すると、真剣な表情で聞いていたエルベルトは苦笑しつつ両手を上げた。
「これは、簡単に理解できるものではないな。凄い技術だ。しかし……理解していなくとも使えるのだな?」
「もちろんです。誰でも簡単に使えるのが魔道具ですから」
「本当に素晴らしい。これだけでも妹の生活は楽になるだろう」
エルベルトの妹は飲料水の確保や料理にさえ悩んでいたので、そこはこうして既存の魔道具を使うことで容易に解決するだろう。
しかし、カトリーヌとエルベルトの意識はその先に向かっていた。
「ただ、もっと楽になる可能性があるのだな」
「はい。竜族の皆様が持つ魔力を使えば、もしかしたら」
「よし、早くその研究に進もう」
「かしこまりました」
瞳を期待に煌めかせた二人は顔を見合わせて頷きあい、さっそくカトリーヌがテーブルの上に乗せていた小さな魔鉱石を手にひらに乗せる。
魔鉱石は製錬する時に規定の大きさがいくつかあり、その規定である丸型や円柱型、四角型などに作られるのだが、最後に規定サイズには届かない量の魔鉱石が余った場合、適当に冷やし固められるのだ。
それは安く売られ、魔道具の研究をする者たちが魔鉱石自体の研究をするために使う。また技術さえあれば、魔道具師が自ら成形し直して魔道具のエネルギー源として使うこともできた。
カトリーヌは魔道具の小型化を試す時に、規定サイズの魔鉱石を切り取ったりしてしまうのはなんだか忍びなく、この安い魔鉱石を成形し直して使うことがよくあった。
「まずはこの小さな魔鉱石で色々と試してみたいです」
「分かった」
エルベルトが頷いたところで、カトリーヌはその魔鉱石をエネルギー測定器に入れる。この道具は、魔鉱石が内包しているエネルギー量を示してくれるのだ。
「五十二、ですね」
規定サイズ以下の小さなものならばこの程度である。
この五十二というエネルギー量を普通に使えばそのまま数字通りのエネルギーしか扱えないが、魔道具製作の技術で変換効率を例えば二倍にすれば、百を超えるエネルギーを使えるのと同じことになる。
そのため、魔鉱石からエネルギーを抽出する際の変換効率を上げる技術は大切なのだ。魔鉱石は小さいほど保有エネルギー量も少ないので、特に小型の魔道具を作る時には技術力が要求される。
「ほう、これは面白いな。内包しているエネルギー量が数字で表されるのか。とても分かりやすい」
「はい。この数字がエルベルト様の持つ魔力によってどう変化するのか確かめてみたいのです」
魔力に影響を受けることで、エネルギー量が変わるのか、それとも変換効率に何か変化があるのか、もしくは変化がないのか。
カトリーヌはワクワクするのを抑えきれなかった。
口角が上がっているカトリーヌを見て、エルベルトも笑顔になりながら問いかける。
「どのように魔鉱石に干渉すればいい?」
「そうですね……例えばですが、魔力を魔鉱石に注ぎ込むようなことは可能なのでしょうか。わたしは魔力や魔法というものをよく理解しておらず、的確な返答ができなくて申し訳ないのですが」
「魔力を注ぎ込むのか。普段は魔法という形で放出しているからな、魔力のまま――」
しばらく腕を組んでいたエルベルトは、徐に魔鉱石へと手を伸ばした。
エルベルトが魔鉱石に触れた瞬間。
「きゃっ」
「おお」
魔鉱石がピカッと光り、銀色に輝いていたはずの魔鉱石は、目に眩しい金色になった。