愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

22、突然の知らせ

 カトリーヌとエルベルトは毎日魔道具研究室に籠り、魔道具の研究や開発に明け暮れていた。

「カトリーヌ、こちらの素材の処理を魔法でやっておく」
「ありがとうございます。助かります」

 素材と真剣に向き合うエルベルトを横目に、カトリーヌは尊敬の念を新たにした。エルベルトは竜族という、人間よりも神に近いような立場だ。

 なのに驕ったところは全くなく、勤勉で努力家で、そして優しい。

(本当に、素敵な方ね……)

 ついエルベルトのことを見つめてしまいそうになる自分を律して、目の前の魔道具に集中する。

 細かい内部構造の組み立てに取り組んでいると、ちょうどキリがついたところでエルベルトに声をかけられた。

「カトリーヌ、少し休憩をした方がいいのではないか? ずっと休んでいないだろう?」
「ご心配ありがとうございます。しかし、早くエルベルト様たちの魔道具を完成させたいのです」

 カトリーヌは他人のために何かをすることが好きな性格だ。自分が何かをしたことで喜んでもらえたら、とても嬉しいと思う。

 今回はその相手がエルベルトとその妹ということで、いつも以上に気合いが入っていた。やる気に満ちているカトリーヌを見て、エルベルトは嬉しそうに口元を綻ばせる。

「ありがとう」

 とても良い雰囲気の二人の下に、研究室の扉がノックされる音が届いた。

「なんだろうか」

 今までは食事の時間以外でノックされたことがなく、エルベルトは不思議そうに首を傾げる。カトリーヌも不思議に思いながら、扉に向かった。

「何かあったの?」

 カトリーヌが声をかけると、扉の向こうからすぐ返答がある。

「カトリーヌお嬢様っ、セドリック殿下がお越しです‼︎」

 焦った声音で告げられたのは、衝撃の内容だった。

「なんでっ」

 セドリックは今まで一度もコルディエ侯爵家を訪れたことがないのだ。なのに急に来るということは、エルベルトの存在がセドリックの耳に入ってしまった可能性が高かった。

 カトリーヌは緊張や不安から心臓が激しく動くのを感じながら、自分がしっかりしなければいけないと唇を噛み締める。

(とにかく動揺しちゃダメ。いつも通りに対応すれば大丈夫。エルベルト様の存在が知られてしまったとしても、お父様の友人ということで押し通せばいいのだ。コレットの頑張りを無駄にするのだけは避けないと)

 覚悟を決めてから、エルベルトを振り返った。

「エルベルト様、申し訳ございません。わたしはセドリック殿下のところに参りますので、本日の研究はここまでとなってしまいます」

 そう伝えながらも、カトリーヌは強く後ろ髪を引かれる思いだった。セドリックのところに行きたくない。このままエルベルトといたいと思ってしまう。

 しかし、この状況でそれは無理なことだ。

 気丈な笑みを浮かべたカトリーヌの下へ、エルベルトが大きな数歩で近づいた。

「俺のことは気にしなくていい。それよりも、大丈夫だろうか」

 心配するように眉を下げるエルベルトに、カトリーヌは大きな勇気をもらえたように感じる。

「はい。ご心配なさらないでください。わたしなら大丈夫です。セドリック殿下への対応ならば慣れていますから。エルベルト様は客室で待機をお願いいたします。セドリック殿下にはお父様のご友人で、現在は出かけていると説明いたします」

 貴族令嬢らしく綺麗な笑みを浮かべたカトリーヌに、エルベルトは物言いたげな表情で小さく呟いた。

「もっと自然な笑顔でいてほしいな……」
「え?」

 聞こえなかったカトリーヌが首を傾げると、エルベルトは切り替えるように首を横に振る。

「いや、なんでもない。俺が出るとややこしくなるようだから、客室に隠れていよう。ただカトリーヌ、無理はしないように。何かあれば助けを求めてくれ」

 真剣な表情のエルベルトに、カトリーヌは少し照れながら頷いた。

「は、はい。ありがとうございます」

 そうしてエルベルトと別れたカトリーヌは、呼びに来ていたメイドと共に研究室を後にした。

 ここからは戦いだ。カトリーヌは緩んでしまった頬を引き締め、セドリックのところへ向かうため、まずは足早に自室へと向かった。
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