愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
43、コレットの治癒と甘い二人
白の塔は王宮の敷地内にあり目立つため、目的地は明確だ。
空から見ると、王宮の敷地内には獣が数えきれないほど集まっているのが分かる。騎士たちが必死に戦っているが、かなり苦戦している様子だ。数が多すぎるのだろう。
特に白の塔の周辺は酷かった。騎士団の中隊が獣に応戦しているが、完全に包囲されてしまっていた。
「カトリーヌ、空から獣の数を減らそう」
「はい。あちらに別の大隊がいるので、包囲されている騎士たちが合流できるように、その間の獣から倒したいです」
「分かった」
頷いたエルベルトは大きく息を吸い込み、よく通る声で叫んだ。
「竜族のエルベルトだ! 魔法で獣を倒す! 西の方角の獣を倒していくため、巻き込まれぬよう注意してくれ!」
エルベルトの声は騎士たちに届いたようだ。風魔法で空を飛ぶエルベルトたちに、騎士たちは騒然とする。
そんな中、エルベルトは腕輪型の魔道具を起動させた。それは氷槍を作り出す魔道具だ。上手く狙いを定め――放つ。
ヒュンッ。
風切り音が聞こえ、その直後に獣が一体串刺しになった。ビクビクと震えながら倒れる獣を確認し、すぐに次の獣だ。
「わたしもいきます」
カトリーヌも魔道具を起動させた。
魔法を使い慣れているエルベルトとは違って狙いを定めるのが難しいので、カトリーヌは氷の矢を雨のように降らせる魔法だ。一つ一つの攻撃力は小さいが、獣にダメージを蓄積させ、動きを鈍らせる。
「グォォォォォォォ!」
「ギャウッ、ギャウッ」
空からの突然の攻撃に、獣たちが騒がしくなった。しかし、そんなものはお構いなしに攻撃を続ける。
この場にはエルベルトがいるため、魔鉱石のエネルギーが切れたとしても、魔力で補充してまた魔道具を使えるのだ。エネルギー切れを気にする必要がない魔法の連続攻撃は強かった。
獣たちがどんどん倒れていく。
「すげぇ……!」
「おいっ、弱ってる獣にトドメを刺せ!」
騎士たちの士気も上がったようだ。動きや連携が良くなり、さらに獣が倒される速度が増した。
「エルベルト様、魔力は大丈夫ですか?」
魔力も無限ではない。カトリーヌの心配に、エルベルトは頼もしい笑みを浮かべる。
「まだ問題ない。俺は繊細な魔力の使い方は得意だからな。魔鉱石に魔力を注ぐのは、まさにその最たるものだ。魔力を無駄に使うことがなく、まだしばらくは保つ」
「良かったです。さすがエルベルト様です」
「カトリーヌのおかげだ」
「えっと……二人の成果ですね」
「ははっ、そうだな」
こんな時でも甘い雰囲気のやり取りをしつつ、しかし獣を討伐する方への集中力も切らさなかった。
討伐を続けるほど数十分。白の塔の周りには獣があまりいなくなり、残りは騎士たちが惹きつけてくれている獣だけになったので、二人は下に降りることにした。
白の塔の入り口あたりを目指して降りていくと――。
「コレット⁉︎」
塔の中から怪我をしたコレットと、さらに酷い怪我を負ったコレットの護衛騎士が姿を現したのだ。
「どうしたの⁉︎」
慌ててカトリーヌが駆け寄ると、コレットは辛そうに顔を歪めながら、小さな小瓶をカトリーヌの手に渡した。
「カトリーヌっ、これを」
小瓶をしっかり受け取ると、コレットは安心したように頬を緩める。
「これはなんなの? どうしてここに。それにこんなに怪我も……」
「誘引香の話を聞いて、セドリックの側にいる時に聞いた話を、思い出したのよ。多分中和剤だと思って、隠し場所からなんとか持ち出して塔まで来たのは良かったけど、塔の中にもたくさん獣がいて、気づいたら外も包囲されてて、なんとか物置部屋に隠れてるしかできなくて……」
そこまで告げて咳き込んでしまったコレットを、カトリーヌは慌てて支えた。
エルベルトが急いでコレットに近づき、魔法で治癒を施す。治癒は魔道具にすることに成功しておらず、エルベルトがやるしかないのだ。
しかし高出力が必要な魔法で、エルベルトが苦手としている魔法である。
「エルベルト様……」
顔を顰めたエルベルトが心配になるが、真剣に治癒をするエルベルトの邪魔をしないように、カトリーヌは側で静かに待った。
なんとかコレットとその護衛騎士の治癒を終えたところで、エルベルトは大きく息を吐き出す。かなり辛いだろうがそれを隠すエルベルトに、カトリーヌは心配と感謝が渦巻いて胸がいっぱいになった。
せめて辛さを隠さなくてもいいようにと、カトリーヌは近くで獣と戦っていた騎士を急いで呼んだ。
「すみません! 怪我人の保護を!」
数人の騎士がコレットたちの下にきて、保護してくれる。
怪我は治ったが、おそらく体力や血液の減少でまだ辛そうな二人は、騎士に担がれた。
「コレット、全てが解決したらゆっくりお茶会をしましょう。色々と話したいことがあるの」
カトリーヌの言葉に、コレットは辛そうにしながらも笑顔を見せた。
「ええ、楽しみだわ。エルベルト様との関係も、聞かなくちゃ」
短時間でバレてしまったらしいことに、カトリーヌは驚く。その表情を見て、コレットは苦笑を浮かべた。
「カトリーヌは、割と分かりやすいのよ。お茶会楽しみだから、絶対に無事でいるのよ。あと、セドリックの馬鹿を止めてちょうだい」
「ええ、もちろんよ」
騎士によって運ばれていくコレットたちを見送ったところで、カトリーヌはエルベルトを支えるように手を伸ばした。
「エルベルト様、コレットたちの治癒をありがとうございます。体は辛くないですか? 少し座って休んでください」
エルベルトを支えながら誰もいない塔の中に入ると、エルベルトはカトリーヌの腕を借りながらその場に座り込んだ。
「すまない。やはり治癒は魔力を無駄に使ってしまうな……」
「何か辛さが早く治る方法はあるのでしょうか。飲み物……は準備が難しいですが、あっ、横になるとかはどうですか?」
慌てながらいろんな提案をしていると、そんなカトリーヌを見てふっと頬を緩めたエルベルトが、カトリーヌの手を握った。
そして、ぐいっと自分の元に引き寄せる。
突然引き寄せられたことで体勢を崩したカトリーヌは、エルベルトに向かって倒れ込んでしまった。
体が辛い人に向かって倒れ込むなんて。そう焦ったカトリーヌが急いで体を起こそうとしたところで、エルベルトに強く抱きしめられる。
「少しだけ、抱きしめていてもいいか?」
耳元で伝えられ、カトリーヌは一気に自分の顔が真っ赤になったのが分かった。
「も、もちろん構いませんが……重くない、ですか?」
「大丈夫だ。むしろもう少し重くてもいいな。カトリーヌがこの世界に増えるのは嬉しい」
「ふふっ、なんですかそれ」
思わず笑ってしまうと、エルベルトの笑い声も聞こえてくる。
二人で一緒に笑い、エルベルトが少し腕の力を緩めたところで、至近距離で見つめ合った。
愛おしそうな眼差しで見つめられ、頬に手を添えられたら、カトリーヌはもう恥ずかしさと緊張で動けなかった。エルベルトから目を逸らせず、さらに体も動かせないでいると、少しずつエルベルトの顔が近づいてくる。
鼻先がくっつきそうなほどの距離で、ほぼ反射的にギュッと目を瞑ると、ほぼ同時に唇に柔らかい感触があった。
それはすぐに離れ、また抱きしめられる。
「すまない。我慢できなかった」
カトリーヌはあまりにもドキドキして、意味のある言葉を紡げなかった。
「あ、いえ、うぅ……」
「嫌だったか?」
その問いかけには必死に首を横に振ると、エルベルトが嬉しそうな笑みを浮かべた。
「良かった」
今度はエルベルトがカトリーヌの体を支えるようにして、その場に立ち上がる。
「よし、カトリーヌのおかげで元気が戻った。その中和剤で誘引香の効果を消し、セドリックを捕らえよう」
これからすべきことを告げたエルベルトに、やっとカトリーヌは今の現状を思い出した。
「は、はいっ。上に行きましょう。ただエルベルト様、無理はなさらないでください」
「ああ、気をつける」
空から見ると、王宮の敷地内には獣が数えきれないほど集まっているのが分かる。騎士たちが必死に戦っているが、かなり苦戦している様子だ。数が多すぎるのだろう。
特に白の塔の周辺は酷かった。騎士団の中隊が獣に応戦しているが、完全に包囲されてしまっていた。
「カトリーヌ、空から獣の数を減らそう」
「はい。あちらに別の大隊がいるので、包囲されている騎士たちが合流できるように、その間の獣から倒したいです」
「分かった」
頷いたエルベルトは大きく息を吸い込み、よく通る声で叫んだ。
「竜族のエルベルトだ! 魔法で獣を倒す! 西の方角の獣を倒していくため、巻き込まれぬよう注意してくれ!」
エルベルトの声は騎士たちに届いたようだ。風魔法で空を飛ぶエルベルトたちに、騎士たちは騒然とする。
そんな中、エルベルトは腕輪型の魔道具を起動させた。それは氷槍を作り出す魔道具だ。上手く狙いを定め――放つ。
ヒュンッ。
風切り音が聞こえ、その直後に獣が一体串刺しになった。ビクビクと震えながら倒れる獣を確認し、すぐに次の獣だ。
「わたしもいきます」
カトリーヌも魔道具を起動させた。
魔法を使い慣れているエルベルトとは違って狙いを定めるのが難しいので、カトリーヌは氷の矢を雨のように降らせる魔法だ。一つ一つの攻撃力は小さいが、獣にダメージを蓄積させ、動きを鈍らせる。
「グォォォォォォォ!」
「ギャウッ、ギャウッ」
空からの突然の攻撃に、獣たちが騒がしくなった。しかし、そんなものはお構いなしに攻撃を続ける。
この場にはエルベルトがいるため、魔鉱石のエネルギーが切れたとしても、魔力で補充してまた魔道具を使えるのだ。エネルギー切れを気にする必要がない魔法の連続攻撃は強かった。
獣たちがどんどん倒れていく。
「すげぇ……!」
「おいっ、弱ってる獣にトドメを刺せ!」
騎士たちの士気も上がったようだ。動きや連携が良くなり、さらに獣が倒される速度が増した。
「エルベルト様、魔力は大丈夫ですか?」
魔力も無限ではない。カトリーヌの心配に、エルベルトは頼もしい笑みを浮かべる。
「まだ問題ない。俺は繊細な魔力の使い方は得意だからな。魔鉱石に魔力を注ぐのは、まさにその最たるものだ。魔力を無駄に使うことがなく、まだしばらくは保つ」
「良かったです。さすがエルベルト様です」
「カトリーヌのおかげだ」
「えっと……二人の成果ですね」
「ははっ、そうだな」
こんな時でも甘い雰囲気のやり取りをしつつ、しかし獣を討伐する方への集中力も切らさなかった。
討伐を続けるほど数十分。白の塔の周りには獣があまりいなくなり、残りは騎士たちが惹きつけてくれている獣だけになったので、二人は下に降りることにした。
白の塔の入り口あたりを目指して降りていくと――。
「コレット⁉︎」
塔の中から怪我をしたコレットと、さらに酷い怪我を負ったコレットの護衛騎士が姿を現したのだ。
「どうしたの⁉︎」
慌ててカトリーヌが駆け寄ると、コレットは辛そうに顔を歪めながら、小さな小瓶をカトリーヌの手に渡した。
「カトリーヌっ、これを」
小瓶をしっかり受け取ると、コレットは安心したように頬を緩める。
「これはなんなの? どうしてここに。それにこんなに怪我も……」
「誘引香の話を聞いて、セドリックの側にいる時に聞いた話を、思い出したのよ。多分中和剤だと思って、隠し場所からなんとか持ち出して塔まで来たのは良かったけど、塔の中にもたくさん獣がいて、気づいたら外も包囲されてて、なんとか物置部屋に隠れてるしかできなくて……」
そこまで告げて咳き込んでしまったコレットを、カトリーヌは慌てて支えた。
エルベルトが急いでコレットに近づき、魔法で治癒を施す。治癒は魔道具にすることに成功しておらず、エルベルトがやるしかないのだ。
しかし高出力が必要な魔法で、エルベルトが苦手としている魔法である。
「エルベルト様……」
顔を顰めたエルベルトが心配になるが、真剣に治癒をするエルベルトの邪魔をしないように、カトリーヌは側で静かに待った。
なんとかコレットとその護衛騎士の治癒を終えたところで、エルベルトは大きく息を吐き出す。かなり辛いだろうがそれを隠すエルベルトに、カトリーヌは心配と感謝が渦巻いて胸がいっぱいになった。
せめて辛さを隠さなくてもいいようにと、カトリーヌは近くで獣と戦っていた騎士を急いで呼んだ。
「すみません! 怪我人の保護を!」
数人の騎士がコレットたちの下にきて、保護してくれる。
怪我は治ったが、おそらく体力や血液の減少でまだ辛そうな二人は、騎士に担がれた。
「コレット、全てが解決したらゆっくりお茶会をしましょう。色々と話したいことがあるの」
カトリーヌの言葉に、コレットは辛そうにしながらも笑顔を見せた。
「ええ、楽しみだわ。エルベルト様との関係も、聞かなくちゃ」
短時間でバレてしまったらしいことに、カトリーヌは驚く。その表情を見て、コレットは苦笑を浮かべた。
「カトリーヌは、割と分かりやすいのよ。お茶会楽しみだから、絶対に無事でいるのよ。あと、セドリックの馬鹿を止めてちょうだい」
「ええ、もちろんよ」
騎士によって運ばれていくコレットたちを見送ったところで、カトリーヌはエルベルトを支えるように手を伸ばした。
「エルベルト様、コレットたちの治癒をありがとうございます。体は辛くないですか? 少し座って休んでください」
エルベルトを支えながら誰もいない塔の中に入ると、エルベルトはカトリーヌの腕を借りながらその場に座り込んだ。
「すまない。やはり治癒は魔力を無駄に使ってしまうな……」
「何か辛さが早く治る方法はあるのでしょうか。飲み物……は準備が難しいですが、あっ、横になるとかはどうですか?」
慌てながらいろんな提案をしていると、そんなカトリーヌを見てふっと頬を緩めたエルベルトが、カトリーヌの手を握った。
そして、ぐいっと自分の元に引き寄せる。
突然引き寄せられたことで体勢を崩したカトリーヌは、エルベルトに向かって倒れ込んでしまった。
体が辛い人に向かって倒れ込むなんて。そう焦ったカトリーヌが急いで体を起こそうとしたところで、エルベルトに強く抱きしめられる。
「少しだけ、抱きしめていてもいいか?」
耳元で伝えられ、カトリーヌは一気に自分の顔が真っ赤になったのが分かった。
「も、もちろん構いませんが……重くない、ですか?」
「大丈夫だ。むしろもう少し重くてもいいな。カトリーヌがこの世界に増えるのは嬉しい」
「ふふっ、なんですかそれ」
思わず笑ってしまうと、エルベルトの笑い声も聞こえてくる。
二人で一緒に笑い、エルベルトが少し腕の力を緩めたところで、至近距離で見つめ合った。
愛おしそうな眼差しで見つめられ、頬に手を添えられたら、カトリーヌはもう恥ずかしさと緊張で動けなかった。エルベルトから目を逸らせず、さらに体も動かせないでいると、少しずつエルベルトの顔が近づいてくる。
鼻先がくっつきそうなほどの距離で、ほぼ反射的にギュッと目を瞑ると、ほぼ同時に唇に柔らかい感触があった。
それはすぐに離れ、また抱きしめられる。
「すまない。我慢できなかった」
カトリーヌはあまりにもドキドキして、意味のある言葉を紡げなかった。
「あ、いえ、うぅ……」
「嫌だったか?」
その問いかけには必死に首を横に振ると、エルベルトが嬉しそうな笑みを浮かべた。
「良かった」
今度はエルベルトがカトリーヌの体を支えるようにして、その場に立ち上がる。
「よし、カトリーヌのおかげで元気が戻った。その中和剤で誘引香の効果を消し、セドリックを捕らえよう」
これからすべきことを告げたエルベルトに、やっとカトリーヌは今の現状を思い出した。
「は、はいっ。上に行きましょう。ただエルベルト様、無理はなさらないでください」
「ああ、気をつける」