推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

近くて遠いお隣さん(9)

 私はそう言いながら、自分と成瀬さんの関係性を今更ながらに再認識した。
 いつの間にか成瀬さんと親しい間柄になったつもりでいた。
 成瀬さんの出る舞台に招待までしてもらえて、特別な存在になったつもりですらいたのかもしれない。
 でも、実際は特別なんかじゃなかったんだと気づく。
 彼の連絡先すら知らない。成瀬さんのプライベートなことで私が知っていることなど、数えるほどしかない。
 だけど、それが当たり前。だって、私たちはただのお隣さんなんだもの。
 私の言いたいことが伝わったのだろう。蓮の顔もさっき以上に引きつっている。
 彼はその場を取り繕う言葉を探しているのか、口を開きかけては止めるのを何度も繰り返す。やがて、頭を抱えながらため息をついた。
「そうか。俺はてっきり……。そうだな。お前の言う通りだ。ただの隣人とは、連絡先の交換はしないわな」
 そう言うと、蓮はポケットから自身のスマホを取り出した。
「とりあえず、俺が連絡しといてやるよ。千紘が舞台を楽しんだようだって。それから先の話は、まぁ、会った時にでも話せよ。俺はもう何も言わねぇ」
 蓮はそう言うと、私の返事も待たずにスマホをいじり出す。そしてすぐにメッセージを送ったのか、顔を上げた。
「俺、この後仕事なんだ。陽にも面倒見るって言ったのに、なんか悪いな」
「ううん。いろいろありがとう。あとは帰るだけだし、一人でも大丈夫」
 私はそう言って蓮を安心させる。
 蓮はホッとしたように笑った。
 それから蓮は次の仕事場へと向かい、一人になった私は舞台のパンフレットを三部購入してから劇場を出た。外はすっかり夜だ。
 家に帰った私は他所行きの服を脱ぎ捨て、ゆったりとした部屋着に着替える。そして、そのままベッドにダイブした。
 仰向けになって目を瞑る。途端に浮かんでくるのは、今日観た舞台のこと。
 脳裏に焼き付いた成瀬さんの姿と歌声を思い出しながら、私はゆっくりと記憶を辿る。
 本当に素敵だった。舞台上の成瀬さんはキラキラしていて……いや、いつも素敵なんだけど、いつも以上に輝いて見えた。
 Scorpio(スコルピオ)のライブ衣装や、蓮が以前出演した舞台で着用していた衣装のような煌びやかさはないのに、成瀬さんはキラキラと輝いて見えた。悲しんでいる演技をしている時でさえ、その圧倒的な輝きに目が離せなかった。
 それなのに、舞台に引き込まれれば引き込まれるほど、成瀬さんを遠く感じた。
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