推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー
近くて遠いお隣さん(8)
舞台の余韻がまだ身体の中に残っていて、うまく言葉が出てこない。ただ、胸の奥がじんわりと熱くて、少しだけ苦しい。
「……すごかった」
ようやく絞り出した言葉は、それだけだった。
でも、蓮はそれで十分だと言わんばかりに静かに頷いた。
私はもう一度舞台を見つめる。
幕はすでに降りていて、そこには誰もいない。だけど、さっきまでそこにいた成瀬さんの姿が、瞼の裏に焼き付いて離れない。
「ねぇ、蓮。候補者Fって成瀬さんだよね?」
私がそっと問いかけると、蓮は少しだけ肩をすくめた。
「今の俺の立場では、それは答えられないな」
確かにそれはそうだ。でも……。
私が眉間にシワを寄せていると、蓮は可笑しそうに笑う。
「でも、そうだな。俺が言えるとすれば……お前、耳がいいんだなってことかな」
それはもう、答えを言っているようなものではないだろうか。
私は思わず蓮の顔を見る。
だけど、蓮は素知らぬ顔で言葉を続けた。
「まぁ、本当のことが知りたいなら陽に直接聞いてみろよ」
「……うん」
蓮の言葉に、私は小さく頷いた。
舞台の感動と、心のざわめきが混じり合って、うまく話せないかもしれない。それでも早く成瀬さんに会って話を聞きたい。
「今から会いに行ってもいいのかな?」
舞台裏の状況がよくわからなくて問うと、蓮は少し考え、それから首を横に振った。
「いや、今はやめておけ。公演後はシャワー浴びたり、次の公演に向けて立ち回りの修正があったり、いろいろあるんだ。さっきみたいに話せる時間が取れるかはわからない」
「……そうなんだ」
蓮の言葉に、私は小さくため息をついた。
成瀬さんに会いたい。
私はもう一度舞台を見つめる。私の知らない成瀬さんが立っていた場所。近くて遠いその場所をじっと見ていたら、なんだかまた切なくなった。
黙ってしまった私を見かねたのか、蓮がポンと肩を叩く。
「まぁ、後で連絡でも入れてみろよ」
蓮のその言葉に「そうか」と思い、それからすぐに私は首を横に振った。そういえば、連絡先の交換をしていなかった。
「成瀬さんの連絡先知らない……」
そんな現実に直面して、また胸が痛む。なんだか泣きそうだ。
私の暗く沈んだ声に、蓮の顔もひきつる。
「はぁ? じゃあお前たち今までどうしてたんだよ?」
「……どうも何も。ただのお隣さんだもん。偶然顔を合わせた時に話すくらい。お隣さんって、そういうもんでしょ? それとも、蓮はお隣さんと連絡先交換してるの?」
「……すごかった」
ようやく絞り出した言葉は、それだけだった。
でも、蓮はそれで十分だと言わんばかりに静かに頷いた。
私はもう一度舞台を見つめる。
幕はすでに降りていて、そこには誰もいない。だけど、さっきまでそこにいた成瀬さんの姿が、瞼の裏に焼き付いて離れない。
「ねぇ、蓮。候補者Fって成瀬さんだよね?」
私がそっと問いかけると、蓮は少しだけ肩をすくめた。
「今の俺の立場では、それは答えられないな」
確かにそれはそうだ。でも……。
私が眉間にシワを寄せていると、蓮は可笑しそうに笑う。
「でも、そうだな。俺が言えるとすれば……お前、耳がいいんだなってことかな」
それはもう、答えを言っているようなものではないだろうか。
私は思わず蓮の顔を見る。
だけど、蓮は素知らぬ顔で言葉を続けた。
「まぁ、本当のことが知りたいなら陽に直接聞いてみろよ」
「……うん」
蓮の言葉に、私は小さく頷いた。
舞台の感動と、心のざわめきが混じり合って、うまく話せないかもしれない。それでも早く成瀬さんに会って話を聞きたい。
「今から会いに行ってもいいのかな?」
舞台裏の状況がよくわからなくて問うと、蓮は少し考え、それから首を横に振った。
「いや、今はやめておけ。公演後はシャワー浴びたり、次の公演に向けて立ち回りの修正があったり、いろいろあるんだ。さっきみたいに話せる時間が取れるかはわからない」
「……そうなんだ」
蓮の言葉に、私は小さくため息をついた。
成瀬さんに会いたい。
私はもう一度舞台を見つめる。私の知らない成瀬さんが立っていた場所。近くて遠いその場所をじっと見ていたら、なんだかまた切なくなった。
黙ってしまった私を見かねたのか、蓮がポンと肩を叩く。
「まぁ、後で連絡でも入れてみろよ」
蓮のその言葉に「そうか」と思い、それからすぐに私は首を横に振った。そういえば、連絡先の交換をしていなかった。
「成瀬さんの連絡先知らない……」
そんな現実に直面して、また胸が痛む。なんだか泣きそうだ。
私の暗く沈んだ声に、蓮の顔もひきつる。
「はぁ? じゃあお前たち今までどうしてたんだよ?」
「……どうも何も。ただのお隣さんだもん。偶然顔を合わせた時に話すくらい。お隣さんって、そういうもんでしょ? それとも、蓮はお隣さんと連絡先交換してるの?」