私は剣に身を捧げた女。王太子殿下の求愛は、お受け出来ません

「私にとっても、初めての恋のようです」


 マリエルとリーネが出て行ってしばらくしてから、慌てたようなノックの音が聞こえた。出迎えると——
 
「ヴィオラさま……」
 
 青ざめ、怯えたようなセリーヌ嬢が、不安そうに立っていた。いつもより質素で、大人しいレースのドレスを身にまとっている。
 
「セリーヌ嬢? どうなさったのですか。どうぞ、入ってください」
 
 手を引いて室内に招き入れ、椅子を勧める。しかし彼女は首を横に振ると、すっとそばに寄って私の手を取った。
 
 いったい、どうしたのだろう。彼女が私を訪ねていると知られたら、エルディシア公爵は激怒するに違いない。
 
 エルディシア公爵にとって、私は〝娘と王太子の婚約を邪魔する女〟なのだから。
 
「ヴィオラさま……お怪我を……!」
 
 絞り出したような声が、泣き出しそうに震えている。大きな目には涙が溜まっていて、私の当て布をした頬をじっと見つめていた。
 
「ええ。驚きましたが、大事には至りませんでした。なにより、王太子殿下はご無事ですから」
 
 少し戸惑いながら、セリーヌ嬢の柔らかい小さな手をきゅっと握る。
 
 心配してくれるセリーヌ嬢の心遣いが、とても嬉しい。しかし、なぜこんなに動揺しておられるのだろう。
 
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