氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
先生はしばらく黙った。

そして、いつもより少しだけ不器用に、私の左手へ視線を落とした。

「触れてもいいか」

その聞き方が、あまりにも先生らしくて、胸が締めつけられる。

「はい」

先生の指先が、私の手に触れた。

ゆっくりと、逃げないことを確認するように。
左手を、そっと取られる。

冷たいと思っていた手は、やっぱり温かかった。

あの雨の日と同じ。

倉庫で震えながら私の腕を押さえた時と同じ。
先生の手は、怖さを知っている手だった。
それでも、離さない手だった。

「俺は、君をうまく扱えない」

「知っています」

「心配も、言葉にすると命令になる」

「知っています」

「恋人として適切な行動ができる保証もない」

「先生、告白の場面でリスク説明しないでください」

先生は少し眉を寄せた。

「事前に共有すべき情報だ」

「そういうところも、好きです」

言った瞬間、先生の手に少しだけ力が入った。

「……君は物好きだ」

私は少し笑った。

すると先生は、私の手を握ったまま、ほんの少しだけ距離を詰めた。

「今井」

「はい」

「君が隣にいるなら、怖いままでも立てる気がする」

胸の奥が、静かに満たされていく。

私は握られた手を、そっと握り返した。

「私も、先生が隣にいるなら、走りすぎる前に止まれる気がします」

「気がする、では足りない」

「努力します」

「それならいい」

先生の声が、少しだけ柔らかかった。
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