氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
私は廊下に出て、再び沢渡先生に電話をかけた。

数回のコールのあと、繋がる。

『沢渡だ』

「三件の共通項が出ました」

『言え』

「白峰メディカルケア。在宅医療クリニックです。三件とも直近で関与しています」

電話の向こうで、紙をめくる音がした。

『三件すべてか』

「はい。一件目は退院後の健康相談、二件目は訪問看護、三件目は往診です」

『同一法人内の別職種か』

「そうです」

『担当者は同じか』

「今から確認します。任意で話を聞きに行きます」

『警察だけで行けばいい』

予想通りの返事だった。

「先生にも来てほしいです」

『断る』

即答だった。
早すぎる。

「まだ理由を言ってません」

『理由があっても断る。俺は捜査員ではない。現場聞き込みは君たちの仕事だ』

「でも、医療記録の話になります。先生の所見が必要です」

『資料を送れ。見れば済む』

「その場で聞かないとわからないことがあります」

『君が聞け』

「私が聞いても、医学的に何が不自然か判断しきれない」

『勉強不足だ』

「そうです。だから先生に頼んでいます」

言ってから、自分でも少し驚いた。
開き直りに近かった。
でも、本当のことだ。

電話の向こうが静かになる。

私は続けた。

「先生の力が必要です。だから……協力してください」

『今井刑事』

「はい」

『君は自分が正しいと思うと、相手の事情を踏み越える』

胸が詰まった。

「……わかっています」

『わかっていない人間の返事だ』

「それでも、止めたいんです」

『その熱意は免罪符にならない』

「はい」

今度は、反論しなかった。

沈黙。
廊下の奥で、誰かがコピー機のふたを閉じる音がした。

『白峰メディカルケアの所在地は』

「目青区三石町です。駅から少し離れた住宅街にあります」

『一時間後に署へ行く』

私は思わずスマートフォンを強く握った。

「来てくれるんですか」

『しぶしぶだ』

「ありがとうございます」

『礼はいらない。俺は、君の暴走で情報が汚れるのを防ぐために行く』

「本当に一言多いですね」

『二言目を足されたいか』

「いりません」

『なら黙って資料を揃えろ』
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