氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
電話を切ると、沢渡先生がこちらを見ていた。
「先輩にも言われました」
「何を」
「突っ走るな、と」
「正しい評価だ」
「先生まで」
「君の危うさは、周囲の共通認識らしい」
反論したかった。
でも、できなかった。
白峰メディカルケアで橘さんを問い詰めかけた。
処置室で藤堂さんの『あいつ』を聞き出そうとした。
正義感と言えば聞こえはいい。
でも、私の正義感はときどき、誰かの傷を踏む。
それは、沢渡先生にしたことと同じだ。
「……先生は、私のこと嫌いでしょう」
言ってから、自分で驚いた。
なぜ今、そんなことを聞いたのか。
事件に関係ない。
病院の廊下で聞くことでもない。
先生も少しだけ目を細めた。
「なぜそうなる」
「私は、先生の秘密を利用しました。今日だって、無理させたかもしれない」
「嫌いという分類は、捜査に必要か」
「必要じゃないです」
「なら後回しだ」
「後で答えてくれるんですか」
「必要になれば」
それはつまり、答える気がないということだ。
けれど、切り捨てられた感じはしなかった。
先生なりに、今は答えないと線を引いただけ。
その線が、少しだけ前より柔らかく見えた。
「君は俺を利用した」
先生は静かに言った。
私は息を呑む。
「事実だ。だが、今日の君は、俺の状態を隠した」
先生の目が、私を見る。
「君は、秘密を見せ物にはしなかった」
胸の奥に、何かが落ちた。
私は答えられなかった。
その言葉を、赦しみたいに受け取ってはいけないと思った。
先生は赦しているわけじゃない。
事実を区別しただけだ。
でも、それでも。
少しだけ、息ができた。
「先輩にも言われました」
「何を」
「突っ走るな、と」
「正しい評価だ」
「先生まで」
「君の危うさは、周囲の共通認識らしい」
反論したかった。
でも、できなかった。
白峰メディカルケアで橘さんを問い詰めかけた。
処置室で藤堂さんの『あいつ』を聞き出そうとした。
正義感と言えば聞こえはいい。
でも、私の正義感はときどき、誰かの傷を踏む。
それは、沢渡先生にしたことと同じだ。
「……先生は、私のこと嫌いでしょう」
言ってから、自分で驚いた。
なぜ今、そんなことを聞いたのか。
事件に関係ない。
病院の廊下で聞くことでもない。
先生も少しだけ目を細めた。
「なぜそうなる」
「私は、先生の秘密を利用しました。今日だって、無理させたかもしれない」
「嫌いという分類は、捜査に必要か」
「必要じゃないです」
「なら後回しだ」
「後で答えてくれるんですか」
「必要になれば」
それはつまり、答える気がないということだ。
けれど、切り捨てられた感じはしなかった。
先生なりに、今は答えないと線を引いただけ。
その線が、少しだけ前より柔らかく見えた。
「君は俺を利用した」
先生は静かに言った。
私は息を呑む。
「事実だ。だが、今日の君は、俺の状態を隠した」
先生の目が、私を見る。
「君は、秘密を見せ物にはしなかった」
胸の奥に、何かが落ちた。
私は答えられなかった。
その言葉を、赦しみたいに受け取ってはいけないと思った。
先生は赦しているわけじゃない。
事実を区別しただけだ。
でも、それでも。
少しだけ、息ができた。