氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
「先生」

「なんだ」

「私、もうそれを武器にしたくないです」

言った瞬間、廊下の音が遠くなった。

言ってしまった。

取引を否定する言葉。
私が自分で持ち出した条件を、自分で手放す言葉。

沢渡先生は黙っていた。

私は続ける。

「協力してほしい気持ちは変わりません。でも、脅して動かすようなことは、もうしたくありません」

「なら、俺が帰ると言ったら?」

心臓が、少し痛んだ。

「止めます」

「矛盾している」

「はい」

「どう止める」

「事件を止めるために必要だと、正面から頼みます」

先生の口元が、ほんのわずかに動いた。
笑った、のかもしれない。
でも、すぐに消えた。

「効率が悪い」

「わかっています」

「君らしいな」

今度は、今井刑事とは呼ばなかった。
でも、今井とも呼ばなかった。

ただ、君。

その距離が、今の私たちにはちょうどいいのかもしれない。
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