氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
店員に軽く頭を下げ、私たちは奥の席へ移動した。
真鍋先輩は少し離れた席に座り、新聞で顔を隠しながら肩を震わせている。

絶対に笑っている。

「誤情報は訂正すべきだ」

隣で沢渡先生が言った。

「わかってます」

「ならなぜ不満そうな顔をする」

「訂正は正しいですけど、速度が傷つきます」

言ってしまってから、しまったと思った。

沢渡先生が、ほんの少しだけ黙る。

長い沈黙ではない。
けれど、先生にしては珍しい間だった。

「……速度に問題があったのか」

真面目に分析し始めた。

私は思わず顔を押さえたくなった。

「そこを検証しなくていいです」

「誤解を長引かせる方が悪い」

「それもわかってます。でも、人間の気持ちは秒数で割り切れないんです」

「非効率だな」

「先生のそういうところ、嫌いじゃないですけど、たまに本当に面倒です」

沢渡先生は眉を寄せた。

「嫌いじゃない、の後に面倒が来る文脈は矛盾している」

「人間の感情は矛盾するんです」

「知っている」

その返事が、意外に静かだった。
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