氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
薬局を出ると、真鍋先輩が新聞を小脇に抱えて追いついてきた。
「いやあ、いいもの見た」
「聞いてました?」
「仕事だからな」
「絶対楽しんでましたよね」
「まあな」
真鍋先輩は悪びれず笑った。
「沢渡先生、今井の扱いに慣れてきましたね」
「慣れていない。傾向を把握しただけだ」
「それを世間では慣れたって言うんですよ」
「世間の定義に興味はない」
真鍋先輩は面白がるように肩を揺らした。
「お前ら、コンビ感出てきたな」
その言葉に、心臓が跳ねた。
コンビ。
悪い言葉じゃない。
むしろ嬉しい。
でも、なぜか胸の奥が落ち着かない。
沢渡先生は表情を変えない。
「コンビという表現は曖昧だ」
「じゃあ何だよ」
すると、沢渡先生が真顔で言った。
「今井刑事は暴走防止対象だ」
「ひどいです」
「事実だ」
真鍋先輩が笑う。
「はいはい、相棒ね」
相棒。
その言葉が、雨上がりの空気の中に落ちた。
私は何も言えなかった。
沢渡先生も、すぐには否定しなかった。
いつもなら、相棒ではない、と即答しそうなのに。
少しの間があった。
その間だけで、胸が勝手に温かくなる。
けれど先生は、結局言った。
「捜査上の一時的な協力関係だ」
「それを相棒って言うんだよ、先生」
「定義が雑だ」
真鍋先輩は笑いながら先に歩き出した。
「じゃあ、その雑な定義で署に戻るぞ。相棒さんたち」
「先輩!」
私は慌てて追いかけようとして、足を止めた。
沢渡先生がまだ隣にいたからだ。
先生は私の方を見ずに、低く言った。
「さっき、よく止まった」
「え?」
「橘に詰め寄りかけた時だ。ペンで合図したら、止まった」
私は驚いて先生を見た。
「褒めました?」
「事実確認だ」
「先生にしては褒め言葉ですね」
「誤認だ」
「いいえ。今のは褒め言葉として受け取ります」
「勝手にしろ」
沢渡先生は歩き出した。
その背中を見ながら、私は唇をゆるめる。
『今日は、よく止まった』
たったそれだけ。
普通なら、褒め言葉にもならない。
でも、先生が私の行動を見て、認めてくれた。
それがこんなに嬉しいなんて、自分でも少し怖かった。
「いやあ、いいもの見た」
「聞いてました?」
「仕事だからな」
「絶対楽しんでましたよね」
「まあな」
真鍋先輩は悪びれず笑った。
「沢渡先生、今井の扱いに慣れてきましたね」
「慣れていない。傾向を把握しただけだ」
「それを世間では慣れたって言うんですよ」
「世間の定義に興味はない」
真鍋先輩は面白がるように肩を揺らした。
「お前ら、コンビ感出てきたな」
その言葉に、心臓が跳ねた。
コンビ。
悪い言葉じゃない。
むしろ嬉しい。
でも、なぜか胸の奥が落ち着かない。
沢渡先生は表情を変えない。
「コンビという表現は曖昧だ」
「じゃあ何だよ」
すると、沢渡先生が真顔で言った。
「今井刑事は暴走防止対象だ」
「ひどいです」
「事実だ」
真鍋先輩が笑う。
「はいはい、相棒ね」
相棒。
その言葉が、雨上がりの空気の中に落ちた。
私は何も言えなかった。
沢渡先生も、すぐには否定しなかった。
いつもなら、相棒ではない、と即答しそうなのに。
少しの間があった。
その間だけで、胸が勝手に温かくなる。
けれど先生は、結局言った。
「捜査上の一時的な協力関係だ」
「それを相棒って言うんだよ、先生」
「定義が雑だ」
真鍋先輩は笑いながら先に歩き出した。
「じゃあ、その雑な定義で署に戻るぞ。相棒さんたち」
「先輩!」
私は慌てて追いかけようとして、足を止めた。
沢渡先生がまだ隣にいたからだ。
先生は私の方を見ずに、低く言った。
「さっき、よく止まった」
「え?」
「橘に詰め寄りかけた時だ。ペンで合図したら、止まった」
私は驚いて先生を見た。
「褒めました?」
「事実確認だ」
「先生にしては褒め言葉ですね」
「誤認だ」
「いいえ。今のは褒め言葉として受け取ります」
「勝手にしろ」
沢渡先生は歩き出した。
その背中を見ながら、私は唇をゆるめる。
『今日は、よく止まった』
たったそれだけ。
普通なら、褒め言葉にもならない。
でも、先生が私の行動を見て、認めてくれた。
それがこんなに嬉しいなんて、自分でも少し怖かった。