氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
「先生は、橘さんを疑っているんですか」

沢渡先生は、すぐには答えなかった。

「疑う、という言葉は雑だ」

「じゃあ、何ですか」

「保留している」

先生はボードへ視線を戻す。

「神崎は怪しい。白峰院長にも管理責任がある。橘は怯えている。だが、怯えていることと、正しい証言をしていることも同義ではない」

胸の奥に、小さな棘が刺さる。

橘さんを守りたい。
そう思う私がいる。

でも、守りたい気持ちで、証言を丸ごと信じてはいけない。
沢渡先生は、それを言っている。

「……私、また走りそうになっていましたね」

「走る前に止まった」

「先生が止めたからです」

「君が止まる気を持ったからだ」

思わず、息を止めた。

褒められたのかと思った。

けれど、先生はすぐに資料へ視線を落とす。

「成長は遅いが、ゼロではない」

「そこは素直に褒めてください」

「事実を述べている」
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