氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
「死者は、声を出さない」

先生は言った。

「残るものがあるだけだ。皮膚の痕跡、体内の変化、現場の温度、薬剤の濃度。そこから、生きていた時に何が起きたかを拾う」

「先生は、それを声みたいに聞いているんですね」

「比喩としては、否定しない」

先生は少しだけ目を伏せた。

その横顔に、いつもの氷の硬さではなく、もっと深い疲れが見えた。

私は、ずっと聞けなかったことを思い出す。

どうして、生きている人間の血が苦手なのか。

聞いていいのか、わからなかった。
聞く資格があるのかも、わからなかった。

最初にその秘密を武器にした私が、知りたいなんて思っていいのか。

けれど、先生の方から静かに言った。

「昔、臨床の現場にいたことがある」

私は、息を止めた。

先生は資料を閉じた。
その指先は、いつもより少しだけ遅かった。
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