氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
私は顔を上げて、沢渡先生を見る。
「先生」
「なんだ」
「一緒に来てください」
先生の目が、少しだけ見開かれた。
驚いたのだとわかった。
以前の私なら、一人で走り出していたから。
先生は一拍置いて、いつもの顔に戻った。
「ようやく学習したな」
「先生がうるさいので」
「妥当な指摘をうるさいで片づけるな」
「はいはい」
「返事は一回でいい」
そのやり取りに、ほんの少しだけ息が戻る。
重くなりすぎていた胸が、少しだけ軽くなった。
私は橘さんへ返信を打つ。
『一人で動かないでください。今から向かいます。場所を送ってください。神崎さんには知られないよう、こちらから接触しません』
すぐに、白峰メディカルケアの旧倉庫の場所が送られてきた。
橘さんはそこにいると言う。
沢渡先生は画面を確認し、すぐ真鍋先輩へ電話をかけた。
「沢渡だ。橘美里から連絡が入った。場所を送る。今井と向かう。警察側の配置を頼む」
電話の向こうで、真鍋先輩が何か言ったらしい。
先生は表情を変えずに答える。
「相棒ではない」
やっぱり否定するんだ、と思った。
けれど、次の瞬間。
「……だが、今井を一人では行かせない」
胸が、言葉にならないほど強く鳴った。
先生は通話を切ると、私へ向き直った。
「行くぞ」
「はい」
監察医務院の玄関へ向かう。
夜の廊下は白く、長く、静かだった。
先生の足音と私の足音が、並んで響く。
相棒だから。
そう思った。
これは事件のため。
橘さんを守るため。
証拠を押さえるため。
そう、何度も自分に言い聞かせる。
玄関の自動扉が開くと、雨上がりの冷たい空気が流れ込んできた。
街灯が濡れた路面を光らせている。
その光の中で、沢渡先生が一度だけ立ち止まった。
そして、私を見た。
「今井、俺から離れるな」
低く、静かな声だった。
命令みたいで。
警告みたいで。
でも、どこか祈りみたいにも聞こえた。
私は頷いた。
「はい」
相棒だから。
そう胸の中で言い聞かせた。
でも、その言葉はもう、相棒というだけでは収まりきらない響きを持っていた。
「先生」
「なんだ」
「一緒に来てください」
先生の目が、少しだけ見開かれた。
驚いたのだとわかった。
以前の私なら、一人で走り出していたから。
先生は一拍置いて、いつもの顔に戻った。
「ようやく学習したな」
「先生がうるさいので」
「妥当な指摘をうるさいで片づけるな」
「はいはい」
「返事は一回でいい」
そのやり取りに、ほんの少しだけ息が戻る。
重くなりすぎていた胸が、少しだけ軽くなった。
私は橘さんへ返信を打つ。
『一人で動かないでください。今から向かいます。場所を送ってください。神崎さんには知られないよう、こちらから接触しません』
すぐに、白峰メディカルケアの旧倉庫の場所が送られてきた。
橘さんはそこにいると言う。
沢渡先生は画面を確認し、すぐ真鍋先輩へ電話をかけた。
「沢渡だ。橘美里から連絡が入った。場所を送る。今井と向かう。警察側の配置を頼む」
電話の向こうで、真鍋先輩が何か言ったらしい。
先生は表情を変えずに答える。
「相棒ではない」
やっぱり否定するんだ、と思った。
けれど、次の瞬間。
「……だが、今井を一人では行かせない」
胸が、言葉にならないほど強く鳴った。
先生は通話を切ると、私へ向き直った。
「行くぞ」
「はい」
監察医務院の玄関へ向かう。
夜の廊下は白く、長く、静かだった。
先生の足音と私の足音が、並んで響く。
相棒だから。
そう思った。
これは事件のため。
橘さんを守るため。
証拠を押さえるため。
そう、何度も自分に言い聞かせる。
玄関の自動扉が開くと、雨上がりの冷たい空気が流れ込んできた。
街灯が濡れた路面を光らせている。
その光の中で、沢渡先生が一度だけ立ち止まった。
そして、私を見た。
「今井、俺から離れるな」
低く、静かな声だった。
命令みたいで。
警告みたいで。
でも、どこか祈りみたいにも聞こえた。
私は頷いた。
「はい」
相棒だから。
そう胸の中で言い聞かせた。
でも、その言葉はもう、相棒というだけでは収まりきらない響きを持っていた。