氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
「今井」
急に呼ばれて、私は立ち止まった。
廊下の角を曲がろうとしていた先生が、こちらを見ている。
「どこへ行く」
「え?」
「玄関はこっちだ」
「あ……考え事してました」
「現場で考え事をするな」
「ここ、現場じゃありません」
「君にとっては、どこでも危険だ」
「ひどいです」
言い返しながら、私は先生の方へ歩いた。
その時、ポケットのスマートフォンが震えた。
画面を見る。
橘美里さんからだった。
胸の奥が一気に現実へ引き戻される。
私はメッセージを開いた。
『神崎さんが、証拠を処分しようとしています』
私は反射的に歩き出しかけた。
橘さんを守らなきゃ。
神崎さんが証拠を消そうとしているなら、今止めなきゃ。
足が前へ出る。
その瞬間、袖が軽く引かれた。
上着の袖を、沢渡先生がそっと掴んでいた。
強くない。
痛くもない。
ただ、私をその場に留めるためだけの力。
振り向くと、先生はすぐに手を離した。
ほんの短い接触だったのに、袖のあたりだけが熱く感じる。
「画面を見せろ」
私は無言でスマートフォンを差し出した。
先生は文面を読み、眉をわずかに寄せた。
「都合がいいな」
「またそれですか」
「神崎が証拠を処分しようとしている――まるで、君を動かすためみたいな言葉だ」
「橘さんが危ないかもしれません」
「その可能性はある」
「なら」
「だからこそ、走るな」
先生の声は低かった。
私は唇を噛みそうになって、やめた。
走るな。
証言を鵜呑みにするな。
言われた言葉が、胸の中で重なる。
私はスマートフォンを握りしめた。
以前の私なら、きっと一人で行っていた。
橘さんを守るためだと言って、神崎さんのところへ向かっていた。
でも、今は。
急に呼ばれて、私は立ち止まった。
廊下の角を曲がろうとしていた先生が、こちらを見ている。
「どこへ行く」
「え?」
「玄関はこっちだ」
「あ……考え事してました」
「現場で考え事をするな」
「ここ、現場じゃありません」
「君にとっては、どこでも危険だ」
「ひどいです」
言い返しながら、私は先生の方へ歩いた。
その時、ポケットのスマートフォンが震えた。
画面を見る。
橘美里さんからだった。
胸の奥が一気に現実へ引き戻される。
私はメッセージを開いた。
『神崎さんが、証拠を処分しようとしています』
私は反射的に歩き出しかけた。
橘さんを守らなきゃ。
神崎さんが証拠を消そうとしているなら、今止めなきゃ。
足が前へ出る。
その瞬間、袖が軽く引かれた。
上着の袖を、沢渡先生がそっと掴んでいた。
強くない。
痛くもない。
ただ、私をその場に留めるためだけの力。
振り向くと、先生はすぐに手を離した。
ほんの短い接触だったのに、袖のあたりだけが熱く感じる。
「画面を見せろ」
私は無言でスマートフォンを差し出した。
先生は文面を読み、眉をわずかに寄せた。
「都合がいいな」
「またそれですか」
「神崎が証拠を処分しようとしている――まるで、君を動かすためみたいな言葉だ」
「橘さんが危ないかもしれません」
「その可能性はある」
「なら」
「だからこそ、走るな」
先生の声は低かった。
私は唇を噛みそうになって、やめた。
走るな。
証言を鵜呑みにするな。
言われた言葉が、胸の中で重なる。
私はスマートフォンを握りしめた。
以前の私なら、きっと一人で行っていた。
橘さんを守るためだと言って、神崎さんのところへ向かっていた。
でも、今は。