麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

 リードネストとの初めての旅行であり、彼の仕事のついでとは言え、広い世界を知れるのはモモネリアも大歓迎だったからだ。

 目的地はトーリェンシア国の隣、ナターシェリア国の中心地をやや過ぎたあたりだとリードネストは言っていた。

 ナターシェリア国は桃の原産地で、気候が比較的安定しているのが特徴だ。

 あたたかな春、暑さが際立つ夏、木々が紅く染まる秋、雪が舞う冬、と『四季』と呼ばれる季節があるらしい。

 ナターシェリア国では現在、夏も本番に向かい、気温はトーリェンシア国に比べると高めだ。


 事前に聞いていたので、なるべく涼しい素材のドレスを選んで荷物に詰めてきた。

 獣人が多いトーリェンシア国とは違い、ナターシェリア国は、主に魔法使いとドワーフの二種族が暮らす。


 それぞれが力を発揮し協力体制ができているため、科学や武力とは違う、我々が見れば魔法としか思えない文明が発達している。

 ナターシェリア国の者たちに言わせると、それは厳密には魔法とは異なるらしい。


 魔法使いが自身の力のみを使い、物を浮かせたり、水や光を操ったり。

 電気や科学の力を借りず、直接手を触れず起こす様々な現象のことを魔法。

 魔法使いとドワーフの二種族が協力して発展させてきたものは、魔法のように見えて魔法ではない。

 それはこの国特有の『文明』らしく、魔法使いやドワーフでなくとも、魔法みたいな不思議な力を道具を通して使えるものだ。


 人間も獣人も。


 その道具があれば、この国で魔法使いやドワーフと同じ生活を送ることができる。

 湯を沸かすことも、灯りをともすことも。

 他国で電気や科学の力で行っていることを、ナターシェリア国では全てこの石の力で行っていた。

 それは、魔法の力をこめることが可能な特別な石に、魔法使いが自身の凝縮させた魔力をうつすことで完成する。

 そして、石は込められた魔力を何故か一定に保ち続けることができ、使われた魔力分が自動で補給される。

 つまり、大量生産できないため貴重で高価なものだが、一つ持っていれば半永久的に使えるのだ。

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