初恋の人がいきなり上司で、訳あり同居生活
「ごめん、お待たせ」

静かにドアが開き、雄平が戻ってきた。
その姿を見た瞬間、塔子はその場に立ち上がった。

「う……そ」

ポカンと口を開けた塔子からこぼれた言葉。
少し照れたように雄平は塔子の目の前まで歩み寄ると、ゆっくりと片膝をつき、体半分低い位置から塔子を見上げた。
その手には、大きなバラの花束が抱えられている。

「遅くなって、ごめん」
「そんな……」

てっきり別れ話をされると思っていた塔子は、混乱したまま立ち尽くした。
その塔子を見て少しだけ微笑んでから、雄平は静かに口を開いた。

「塔子も知っての通り、俺は父親って存在がどういうものなのかよくわからない。何しろ俺の父親は年に数回顔を合わせるだけの人だったからな」
「それは、私も同じです」

思わず塔子は口を挟んだ。
塔子だって普通の家庭とは違う環境で育ってきたと思う。

「だからこそ、愛する人を神林家の跡取り問題に巻き込みたくなかったし、家庭を持ちたいと思ったこともなかった。けれど、塔子と出会って、君と共にいたい、離れたくないと思ったんだ。たとえそれが俺のエゴだとしても、塔子を失いたくない。誰にも渡したくない」

「雄平・・・」

いつの間にか、塔子の頬を温かな涙が伝っていた。
< 210 / 215 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop