静かなる、恋の包囲網
「こんな時間まで、お仕事ですか?」

しばらくして、それまで隣の席で飲んでいたスーツ姿の男性客が声をかけてきた。
時刻は夜の10時半で、終電まであと1時間。
クリスマスの夜に一人でこんな時間まで飲んでいる若い女性が不思議に見えたのかもしれない。

「今日はたまたま残業になって」

お酒の回った心地よさもあり、無意識に返事をした。
普段一人で飲むことが多い塔子だが、プライベートで男性から声をかけられることなんてほとんどないし、事情があって酔っ払いの相手をする機会も多いためつい油断をしてしまった。

「それは、大変ですね」

塔子が反応したのを確認し、自然に体の向きを変え距離を詰めてくる男性客。

―――近いな。

少し不快に感じたものの、塔子は声に出すことはなく飲み込んだ。
こんな日に、こんな場所で、騒ぎを起こしたくはないと思ったからだった。
しかし、それがいけなかったのかもしれない。
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