静かなる、恋の包囲網
―――キャッ。

突然腕をとられ、心の中で塔子は叫んだ。
全身が硬直し、ガタガタと手足が震える。
できることなら大きな声で悲鳴をあげて逃げ出したかったが、それができないくらいに塔子は怯えていた。

「お客さん、大丈夫ですか?」

異変に気付いたマスターが声をかけてくれるが、塔子は固まったまま。
一方男性客は、いつのまにか塔子の肩に手を回している。

「大丈夫ですよ。さあ、行こうか」

ごく自然に、それでいてがっちりと塔子を抱きかかえたまま歩き出そうとする男性客。

―――ついて行ってはダメだ、ここから逃げないと。

このままではどこかに連れ去られてしまうと頭ではわかっていても、塔子にはどうすることもできなかった。
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