仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
甘い声が耳元で響いて、しばらく呼吸を忘れてしまった。
時が止まってしまったみたいだった。
彼の指先は触れていないはずなのに、そこから伝わる温度があまりに鮮烈で、肌を直接なぞられているかのように頬が熱い。
───早く、視線を逸らして。
どこか遠い場所から自身に言い聞かせる。
じゃないと、このままでは心が彼で埋め尽くされてしまう。
そうなる前に、早く……。
「……か、からかうのも、ほどほどに、お願いします……」
消え入りそうな声で、なんとか言葉を紡いだ。
重い鎖を断ち切るようにして視線を逸らす。
彼の瞳から逃れれば少しは冷静になれると思ったのに、かえって鼓動は早まるばかりだった。
「前にも言った気がしますが、べつにからかっているつもりはありませんよ」
彼の手がゆっくりと離れていく。
冗談なのか、本気なのか。この人は境界線を曖昧にぼかして私を惑わせるのが巧すぎる。
もはや残酷なレベルだ。私のような初心者は、手のひらの上で転がされることしかできないのに。