仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
「なにか不満ですか?」

「いえっ、全く……!」

「それでは、今日から二人きりのときもそう呼びます。だからあなたも、俺のことは名前で呼んでください」

「わかりました……」

「ああ、理優“さん”というのもやはり不自然かもしれませんね。呼び捨てでも構いませんか?」

「え? あ、はいっ……もちろんです」

展開の速さに頭がぐるぐるしてくる。
たったこれだけのやり取りなのに、すでに私達の関係が見事に書き換えられているのを感じる。

「ではあなたも一度呼んでみてください」

「え……社長のお名前をですか?」

「他に誰がいるんです?」

「す、すみませんっ……、ええと────と……」

────統悟さん。
喉まで出かかったのに、緊張のあまり声が震えてどうしても形にならない。

まだほんの最初の段階。こんなところでつまずいてはいけないと、ぐっと拳に力を入れる。


「統……、とうご、……さん」

なんとか言い切ったものの、実際には蚊の鳴くような声でしかなかった。


「聞こえませんね。もう一度お願いします」

彼がぐっと距離を詰めてくる。
下から覗き込むように見つめられれば、一段と喉の奥がこわばってしまう。

────そんな矢先。


「呼んで、理優」

低く掠れた声が落ちて、バクン!と心臓が狂った。
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