仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
翌日から、約束通りリビングで過ごすふたりの夜の時間が始まった。
統悟さんは忙しいからなかなか時間は合わないだろうと思っていたけれど、驚くことに、私が夜勤の日以外はおおよそ毎日帰ってきてくれている。
これまでに一番長く空いた期間でも、なんとたったの二日。
しかも遅くとも毎回二十三時頃までにはリビングに入ってきてくれるので、仕事のほうは大丈夫なのかと心配になるほどだ。
昼間は大手不動産会社のトップとして大勢を率いている雲の上の存在である彼が、私と過ごす時間のために仕事を早く片付け、私の前ではスーツを脱ぎ、気安い口調でものを言っている。
そんな非日常的な光景に、初めの頃はもはや生きた心地がしなかった。
けれど、お互いのプロフィールをなぞるだけから始まった会話も、夜を重ねるごとにお互いの深い部分に触れられるようになっていき、今では『統悟さん』という個人の輪郭が少しずつ見えてきているような気がする。
噂通り、彼の仕事に向き合う姿勢はたしかに冷徹だった。この人を敵に回したら……と想像するだけで恐ろしい。
リビングで一緒に過ごしていても、仕事のことで電話がかかってくることが多々あった。
彼はそのたびに厳しい表情でタブレットや資料の数字を睨み、容赦ないセリフを相手に放っていたりする。
――たとえば、今みたいに。
「言い訳は要りません。今回の件で君が貫こうとしたその甘えた考えが、いったいどれだけの損失を生むのか理解していますか? もう一度ゼロから練り直してください。明日まで私を納得させられなければ、あなたにはこのプロジェクトから外れてもらいます。そして今後、重要案件は二度と任せません」
リビングの片隅で電話に応じる彼の声は氷のように冷たい。
ただ、よく聞いていれば、いつだって、そこに理不尽な言葉はなにひとつなかった。