仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
「おや、どうかされましたか? 私の妻が、あなたに何か失礼でも?」
統悟さんの唇は、完璧な弧を描いている。
声音も、まるで親しい友人に語りかけるように柔らかだ。
けれど、男の手首を握る指先だけは、みしり、と骨の軋む音が鳴るんじゃないかと思うほど肌に深く食い込んでいる。
「よ、夜見社長……これは、そのですね……」
「ええ、わかっていますよ。あまりにも彼女が魅力的だから、つい迫りたくなってしまったのでしょう? 趣味が合うようで嬉しいですよ」
統悟さんがくすりと笑う。
彼はそのまま、相手の耳元へと顔を寄せた。
「この汚い手……、根本から切り落とされたくなければ、今すぐ視界から消えてください」
「……っ!!」
男性は顔を真っ青に染めて、そのまま逃げるように去っていった。
その姿を一瞥すると、統悟さんは静かに私を見下ろした。
「戻ってくるのが遅くなり、申し訳ありません」
「統悟、さん……。いえ、私は大丈夫です。来てくださってありがとうございました」
震える声でそう伝えた瞬間、強い力で抱きしめられる。
「……大丈夫、なわけがないでしょう」
そんな言葉とともに、彼の腕にさらに力がこもった。
もしかして、本気で心配してくれたのかな……。
そう思うと、我慢していたはずの涙がなんの予兆もなくぽろりとこぼれた。
「手首と肩……、他に触れられたところはありませんね?」
「………ええと、他は……、く……唇を」
「え?」
しまった。やさしい声に気がゆるんで、つい正直に答えてしまった。