哀しみのオレンジZERO 幸人
EPISODE4 ドラ息子
「大変です!また容疑者が殺されました!」
「何だって!?一体どうなって…」
「犯人はおそらく殺戮のミミズかと…」
「何が殺戮のミミズだ…舐めてやがる!」
報せを受けて現場へ駆けつけると、一人の男性が粉砕機に押し込まれて跡形もなく殺されていた。ミンチになっていて形もないが、DNAと身分証明書から身元が判明。被害者は宮澤洸平21歳。都内の大学に通う大学生だった。おっとその前に現場に駆けつけた警察官だが、その男は警部補を務める坂本逸郎(47)。幸人のことを可愛がって遊んでくれたあの刑事だ。
「こんなことするなんて人間とは思えないですね…明確な殺意持って殺している…殺戮のミミズは一体誰が?」
上司の坂本に問い掛ける若手の刑事は山口真悠斗(26)。
「快楽殺人鬼?そう思ったが多分違うと思う」
「違うですか?」
「俺の超絶な勘な」
「超絶な勘…何です…?」
「警察関係者だ」
何と坂本のプロファイリングでは警察関係者が犯人であるという。それか警察の内部情報を知る反社の人間。だが彼の推理は合っている。おそらく、いや、宮澤洸平を殺害したのは水瀬幸人で間違いない…だがそんなことは口が裂けても言えなかった。彼しか気付いていないが、床に一滴の黄色い薬用クリームのようなものが落ちている。これを見て彼の疑惑は確信へと変わった。果たして犯人が落とした彼にしかわからない証拠品は何だったのか?そして殺された日に何があったのだろうか?果ては残虐すぎるその手口とは一体…
カチッ…ぬりぬり…
幸人はかなりの乾燥肌で春夏秋冬、随時薬用ハンドクリームを塗っている。高校生の頃から手荒れがかなり酷いため今じゃ生活必需品。さてと…モカワを悩ませるライバル企業のブランストンの動向を探ろう。今は殺意を抑えるときだ。それにお腹が空いていたらまともな思考ができない。
「兄ちゃん!」
「はい…」
「随分辛気臭い荷物背負ってんな?腹でも痛いか?」
「いえ…ちょっとぼぉ〜としちゃいました…」
暑い夏でも熱いラーメンが食べたくなる。それも空調が一切効いていない屋台のラーメンだ。照りつける太陽とスープの湯気が汗をかかせる。彼を心配して話し掛けたのは60代の陽気な店主。小さい頃からラーメンが大好きな彼だが、このときは待っている時間が少し長く感じる。
「実は俺はなぁ、兄ちゃんと同じ年くらいのときは散々悪さしたんだ」
道理で親父さんの身体中から圧を感じるものだ。既に何人も殺した彼だからこそわかる雰囲気。だが心の中の優しさを感じて泣きそうにもなってしまう…
「兄ちゃんまだ20歳とかだろ?若ぇならもっとリラックスして生きてみたらどうだ?人生は長ぇぞ」
「……」
何でだろう。激励の言葉を掛けてくれたのは佑香以来初めてだった気がする。今は佑香と連絡が取れない(連絡先は覚えているが反社と関わっている理由で)。
「さあさあ!できたぜ!ご注文の辛味噌ラーメン大盛りッ!」
注文したのは辛味噌ラーメン大盛り。彼はかなりの激辛好きだが食べすぎてトイレの住人になることもしばしば…しかし何故かチャーシューが5枚も乗っている。それに味玉と九条ネギも。
「あれ?これは…」
「サービスだぜ!若ぇのは沢山食って精を付けなきゃダメだ!さぁ、食ってくれ!」
「いただきます…」
フーフー…ズルズルズル…!
暑い夏でも食べたくなる辛いラーメン。辛いとは体質上感じないが汗がじんわりと出る。ハンカチで額の汗を拭きながら熱々のラーメンを啜る。
「可愛いハンカチじゃねぇか?」
「これですか?彼女から貰ったんです」
男性が持たないようなピンク色のハンカチ。佑香から誕生日プレゼントに貰ったハンカチを肌見放さず持ち歩くほど彼は物を大事にする性格だ。
ズルズルズル…
「ご馳走様です!」
「まいど!」
店主は大盛りとトッピング代をサービスしてくれた。この街、葉琉州町は犯罪が絶えなくとも人柄の良い人間は確かに存在する。彼はこの街を守りたいと思うようになった。だが彼の正義感は今、とんでもなく間違った方向に進んでいる…
ドスッ…ドス…!バタン…
「もう…やめて…くれ…!許し…ギャァァァ…!!」
グリ…グリ…!
「もうけっこうです!やめてください…!」
「何故です…この男に怯えてたんですよね…?」
彼は必要以上に男の指をグリグリと踏み続ける。理由は執拗なストーカー被害に遭っていた女性が彼に助けを求め、そのストーカー男に遭遇して苛烈な暴力を加えたのだ…水瀬幸人は公安ながら"犯罪者"と見なした人間を次々と粛清する悪魔。
「フフ…(やっぱり人を痛めつける感覚は堪らない…!)」
「ギャァァァ……!!」
「お願いやめてッ…!」
必死の訴えが効いたのかようやく指から足を離らかした。確かにこのストーカー男は彼にとって殺すべき存在ではない。かなり時間を食ってしまった…
「大丈夫ですか…?」
優しく無事を確認する表情は穏やかだが、彼が発するのは優しさじゃなく狂気…助けられた女性は自分のバッグを握り締めながら
「い…イヤぁー…!!」
女性は逃げたがストーカー男は痛みと恐怖で失神。
「やりすぎたか…フンッ…」
人を痛めつける行為は彼が今までされた暴力と重なり、何故幼少期はただ受けるしかできなかったのか…?受けることしかできなかった事実はやはり彼の身体に表れている。本当なら誰か自分を止めてほしい…
「そろそろ時間か…」
時刻は13時。彼の読みが正しければブランストンの社員たちがモカワに向けて何かしらの嫌がらせをしてくるだろう。それに社長(モカワ)の息子である宮澤洸平の行動に少しきな臭い何かを感じる。今回任されている任務はモカワの護衛であるが犠牲者を出さずに終わることができるのか?
同刻。
「じゃあな!」
「洸平、お前経済学出なくていいのか?」
「今日はかったりぃんだよ…」
「そっか…」
まだ経済学にその他履修した講義があるが洸平はいつも早く大学をバックれている。評価では「可」さえ取れればいいと考えているため毎度の如く成績はギリギリ。
「さてとあいつら誘って飲みにでも行っか…」
あいつらとは過去に幸人を一緒にイジメていた牧野健太郎と鹿野光輝。牧野は違う大学に通う学生で鹿野は都内で鳶職をしている。メールを2人に送ると返事はOK。だが夜の時間まで暇だ…すると洸平はどこかへと電話を掛けた。
「あぁ俺だ。予定通り進めてくれ…死人が出ただと?構わない…」
一体どこへ電話を掛けている?死人が出たとあるが…
その頃、株式会社モカワでは
「……またか…」
会社の入口は生ゴミが廃棄されている。真夏日の暑さも相まって会社の中まで悪臭が漂う。業者を手配してゴミは回収してもらって会社の中へ入ると
ザワザワ…
「どうしたんだ?」
「社長!」
「うぅ…うぅぅん…!」
一人の女子社員が顔を伏せて泣いている。彼女のデスクに目を移すとそこには何枚もの写真、それも着替えや下着を盗撮された写真がずらりと並んでいる。
「誰がこんなことを!?」
「もう他の女性社員は怖くて外に出られてません…」
ライバル企業のブランストンの仕業で睨んでも社員数が多すぎて犯人が誰かを特定できない。さらにネットニュースを開いてみると
「モカワの栄養ドリンクに青酸カリ!?死者多数…」
の記事が…
「クソッ…!!」
「社長…!」
「俺らの一体何を恨んでいるってんだ!?」
このままじゃ社に未来がないかもしれないと考えると発狂寸前だ。すると
ピコン…
「社長、何か通知来てますよ」
「あぁ…」
送り主は水瀬幸人。あの公安の人か
「あなたが悩まされていることはもうすぐ終わります。ですが覚悟しておいてください。」
の一文だけ書かれている。どういうことかとメッセージを送っても既読がつかない。覚悟しておいてくださいの文面だけが妙に気になる。
その日の夜。
「かんぱ〜い!」
「乾杯!」
洸平は牧野と鹿野の3人で居酒屋にいた。
「気にせず飲め!今日も俺の奢りだ」
「ゴチになります!」
「俺も払えるぞ?」
「確かにお前働いてるもんな」
鹿野は既に正社員で働いているため牧野より持ち合わせがある。
ゴクゴク…!ゴクゴク…!
「今日はペース早いな?」
「お前は飲んでねぇじゃねえか?」
「俺は明日仕事だからなぁ…しかも明日から本格的に鉄骨組むしな」
「俺も大学終わったらバイトだよ」
一番酒が進んでいるのは洸平。他2人は明日のために量は控えめだがオーダーした料理はどんどんと食べ進める。唐揚げに刺身、フライドポテトはやっぱりいつ食べても美味しい。
「生おかわりとハイボール…水尾も追加だ!」
「おい大丈夫か?」
「いつもより飲むなぁ…」
既に2リットル以上飲んでいる。すると洸平は酔った勢いで信じられないことを発言し始める。
「なぁ水瀬幸人って奴覚えてるかぁ!?」
「水瀬幸人…?」
「水瀬幸人って確か…あっ!」
懐かしい名前を聞いて黙り込む2人。実は洸平以外の2人は幸人をイジメたことを深く反省している。そもそも3人は中学を卒業して同じ高校へ進学したのだが、洸平だけは性根が変わらず別の同級生をイジメていた。だがあまりにも度を越したイジメを行った結果、その同級生は自ら電車に飛び込んで命を絶ってしまった…それでも洸平は一切反省せず、まるで武勇伝のように大学で話し回っている。
「幸人がどうしたんだ…?」
「あいつ公安やってるみてぇなんだよ!」
「お…おいっ…!?」
「お前!聞こえちまうぞ!?」
他の席にも聞こえるくらいの声量で公安と発言する。本来聞かれてしまうのはかなりマズい…あまりにも大声で話すため他のお客さんや店員が3人の方へ向く。牧野と鹿野は苦笑いで何とか誤魔化すが
「何かあいつ親父の会社を護衛だが何だかしてでなぁ!」
「おいもうちょっと声抑えろ…!」
それに公安ということは超エリートなはず…あいつは超意外な道へ進んでいたのか?
「飲みすぎだぞ…!今日は俺たちが払うからこれで帰るぞ!」
「酒が不味くなること言うなぁ!」
抑えようとしても喋る勢いはむしろ増していき、周りからは冷やかな視線が集まる。そして洸平は遂にとんでもないことを酔いに任せて暴露してしまう。
「親父の奴金使いすぎだぁなんか抜かしやがってカード止めだんだよぉ!どっかで楽に金貰えねえかと考えてたらブランストンの社長が俺を雇ったんだよ!」
「ブランストンって親父さんのライバル企業とかじゃないか…?」
「親父んとこのZパワーだとかに青酸カリ入っでたニュースあるだろぅ!?」
「それって…誰か亡くなったあのあれか…?」
「あれ俺入れたんだよぉ!」
「何…!?」
「何だって!?」
「…!?」
突然の衝撃発言に店内にいる全員が同時に固まる。周りの反応にすら気付かない洸平は大っぴらに衝撃の事実を次々と暴露し
「すいませんお会計お願いします!」
「洸平…お前いい加減にしろ!」
2人は洸平を無理矢理立たせてそのままお会計へ
「お会計4万980円になります…」
「一旦は俺が払う。明日にでもこいつに請求してやろう…」
「俺も2万なら払える」
「無理すんな…バイト代まだ入ってないだろ?いいよ!」
「が〜が〜…」
「しかもこいつ寝てるし…!」
お会計を済ませ一旦近くのベンチに座らせる。
「なあ洸平の言ったこと本当だと思うか?」
「こいつの話基本デマカセなかったからなぁ…何か嘘とは思えねぇ…」
「はぁ~…ってかあの幸人が公安やってるなんてなぁ…」
「でもあいつ頭良かったもんな?あのエルム高に特待生で入ったって聞いてたし…」
「けど俺たち聞いちまったからヤベえんじゃねぇか?何か機密情報に触れちまった気分だし…」
既にベンチで眠ってしまったが夜でも気温はかなり高く、放っておけば熱中症になるリスクが高い。取り敢えず病院にでも連れて行こうかとスマホを取り出した瞬間…
ドカーン…!
「な…何だ…!?」
「オイオイオイオイ…!?吟四郎が燃えてるぞ!」
激しい爆発音がした方へ目を移すとさっきまで飲み食いしていた居酒屋が凄まじい炎に包まれている。まるで爆弾でも爆発したような威力の炎だ。
「おい中にまだ人いるだろ!?」
「今通報した!」
炎の勢いが強すぎて中へ入ることは当然不可能。誰もが見ただけでもう手遅れだということがわかる。
「早く離れねえと!」
「洸平!洸平起きろ…!」
必死で揺さぶっても全く起きる気配がない。このままじゃ本当に高温で死んでしまう!2人は何とかお互いの肩を貸しながら
「せーのっ!」
すると…
ドン…!ドン…!
「うわぁっ…!?」
「あぁっ…!?」
金属バットが胴体に直撃して2人はうつ伏せに倒れる。洸平は酔いでそのまま倒れ込みそうになるが
ガシッ
銃を撃った男の正体は何と
「困るなぁ…洸平君の話を聞いてもらっちゃぁ?」
「誰だ…!?」
「お前…ブランストンの…!」
「何だって…!?」
そう。吟四郎に爆弾を仕掛け、牧野と鹿野を撃った男の正体は株式会社ブランストンの代表取締役社長、押川陸(44)。
「悪いが秘密を知ってしまったからには死んでもらうしかないな…殺れ…」
押川は洸平を車に乗せてそのまま逃走。追おうにも鈍い痛みが襲ってまともに動かない。そしてマスクをしたスーツ姿の男3人がナイフを持って静かに迫ってくる。おそらく押川が金で雇った殺し屋か何かだ。このままじゃ殺されてしまう…!だがそのとき!
グチャッ…!
「グワ…」
突然鈍い音が響き渡る。何か鈍器にでも殴られたような音だったが…投げられたのはただの石だ。
「ゆ…幸人…!?」
「お前…!?何でここに…」
そこにいたのはまるで野球の投手が投げた後のような体勢になっている一人の男。何とさっきまで噂話の話題に入っていたあの水瀬幸人だ。
「……」
彼は一言も発することなく殺し屋に近付いていく。
「おい止せ!」
「何してんだ!?早く逃げろ!」
まるで聞く耳も持たず一歩一歩近付いてくる。その姿は幼い頃にあった臆病で弱かった面影は一切なく、まるで別人を前にしているような感覚。見たこともない水瀬幸人だ。
「目を閉じててください…後悔したくなければ…」
そう冷たく発した次の瞬間…!
フッ…
さっきまでいたはずの彼が急に姿を消した。どこへ行ったんだ?
ザシュッ…!
彼は一瞬の隙もなく男の背後へと回り、手に持っていたナイフを奪ってそのまま斬首。慌ててもう一人は彼の腹部を目掛けてナイフを突き立てるが
シュッ…ブシャー…!
「うわぁー〜…!?」
何とナイフを一振りしただけで男の肘から下がポトンと落ちる。そして…
グサッ…!
「カァ…!」
腹部へと突き刺したナイフはそのまま縦一直線上に斬り上げ…
ブシャー…!
噴水のように溢れ出る返り血…もう何回浴びているのか覚えていない。だが返り血を浴びることは彼にとって快感になっていた…あまりの光景に腰を抜かす牧野と鹿野は
「お前…本当に幸人なのか?」
ドゴン…!
「うわっ…!?」
「お前っ!」
ドゴン…!
「グワァ!?」
まるでイジメの意趣返しのように蹴りを顔面に喰らわせる。血は出ない威力だがまるでバスケットボールが豪速球でぶつかってきたみたいだ。
「これはせめてもお返しです…」
「痛ぇ…!」
「幸人…!」
「安心してください…別に殺しはしません。ただ少し協力してもらいますよ」
顔面を蹴られた上に冷たい視線を送られた2人は従うしかない。2人は一斉に土下座をすると
「幸人…!あのときは本当に悪かった!本当に反省してるんだ…!」
「本当に悪かった…!俺たちにできることがあれば何でもする!慰謝料なり何でも払うから!」
「恥ずかしいからやめてください…お金も何もいらないです…!」
さっきの蹴りで借りなら返した。それでも洸平以外のこの2人はきちんと反省していることが身に沁みてわかった。
「ここじゃ暑いでしょう…まだ飲み直せるなら場所を移しましょうか?」
「幸人ぉ…!」
「お供します幸人様…!」
「幸人でいい…」
数分後。
ゴクゴクゴク…!トンッ…
「幸人…意外と飲むんだな?」
「夏はビールに限るでしょう…それより、洸平君のことについて知っていることを全部話してくれませんか?」
「洸平だよな?」
酒を飲みながらだが2人は宮澤洸平の話を淡々と彼に話し始める。
「高校のとき、あいつにイジメられた男子生徒が一人…電車に飛び込んで自殺したんだ…」
「正直あんとき、あいつを止められなかったことを罪に問われると思った…」
「知ってますよ。名前は本田央介さん…確か洸平君は何の罪に問われることなく、学校もイジメ問題を取り上げなかったんですよね?」
「本田は母子家庭で母ちゃんしかいなくて…突然学校側を訴えたけど結局何も進まなかった…本当なら俺が教えたかったけど、俺まで罪になると思ったら怖くてできなかった…!」
「ですが洸平君のイジメを少しでも止めることならできたでしょう?」
「そうだよな…本当にそうだよ…!」
いくら後悔しても失った命は勿論返ってこない。
「それより、さっき変な殺し屋に襲われましたよね?それに吟四郎が爆発したり…」
「そうだ!あれは一体何だったんだ!?」
「結局何が起きてたんだ!?」
「あれはですね…洸平君のポケットに小型の盗聴器が入ってて、今回モカワの栄養ドリンク青酸カリ事件の真相を知ってしまった人間を探るためですよ…」
「何…それってまさか!?」
「洸平君が酔った勢いで話しただけでも知ってしまった者同然…あなたたちの他吟四郎にいた方々が抹殺対象になったわけですよ…」
そう。さっき起きた吟四郎の爆発事故は事故ではなく、押川陸が仕組んだことだった。しかも洸平がただ単に、モカワに降り掛かった一連の事件を酔った勢いで暴露し、それを聞いてしまっただけで知った者として抹殺対象になり、爆破されたという何とも大迷惑な話だった。牧野と鹿野は店から離れたことで爆撃を免れたものの、逃れたらさっき仕向けられた殺し屋のような者に命を狙われる。遂に洸平は友人すら売る行動に出たのだった。
「ちょっと待ってくれよ!なら俺たち殺されるかもしれないじゃないか!?」
「オイオイマジかよ…!?」
「安心してください…ブランストンも洸平も、もうすぐいなくなりますから」
何と彼は洸平と呼び捨てにした。
「いなくなるって…」
「因果はいつか自分に返ってくるという意味ですよ…」
今日まで殺意を抑えていたがこれで心置きなく洸平を殺せる日が来るとは…これだから人を殺すのは楽しみだ…!さあ僕を楽しませてくれ…死にゆく顔を僕に見せてくれ…!
「何だって!?一体どうなって…」
「犯人はおそらく殺戮のミミズかと…」
「何が殺戮のミミズだ…舐めてやがる!」
報せを受けて現場へ駆けつけると、一人の男性が粉砕機に押し込まれて跡形もなく殺されていた。ミンチになっていて形もないが、DNAと身分証明書から身元が判明。被害者は宮澤洸平21歳。都内の大学に通う大学生だった。おっとその前に現場に駆けつけた警察官だが、その男は警部補を務める坂本逸郎(47)。幸人のことを可愛がって遊んでくれたあの刑事だ。
「こんなことするなんて人間とは思えないですね…明確な殺意持って殺している…殺戮のミミズは一体誰が?」
上司の坂本に問い掛ける若手の刑事は山口真悠斗(26)。
「快楽殺人鬼?そう思ったが多分違うと思う」
「違うですか?」
「俺の超絶な勘な」
「超絶な勘…何です…?」
「警察関係者だ」
何と坂本のプロファイリングでは警察関係者が犯人であるという。それか警察の内部情報を知る反社の人間。だが彼の推理は合っている。おそらく、いや、宮澤洸平を殺害したのは水瀬幸人で間違いない…だがそんなことは口が裂けても言えなかった。彼しか気付いていないが、床に一滴の黄色い薬用クリームのようなものが落ちている。これを見て彼の疑惑は確信へと変わった。果たして犯人が落とした彼にしかわからない証拠品は何だったのか?そして殺された日に何があったのだろうか?果ては残虐すぎるその手口とは一体…
カチッ…ぬりぬり…
幸人はかなりの乾燥肌で春夏秋冬、随時薬用ハンドクリームを塗っている。高校生の頃から手荒れがかなり酷いため今じゃ生活必需品。さてと…モカワを悩ませるライバル企業のブランストンの動向を探ろう。今は殺意を抑えるときだ。それにお腹が空いていたらまともな思考ができない。
「兄ちゃん!」
「はい…」
「随分辛気臭い荷物背負ってんな?腹でも痛いか?」
「いえ…ちょっとぼぉ〜としちゃいました…」
暑い夏でも熱いラーメンが食べたくなる。それも空調が一切効いていない屋台のラーメンだ。照りつける太陽とスープの湯気が汗をかかせる。彼を心配して話し掛けたのは60代の陽気な店主。小さい頃からラーメンが大好きな彼だが、このときは待っている時間が少し長く感じる。
「実は俺はなぁ、兄ちゃんと同じ年くらいのときは散々悪さしたんだ」
道理で親父さんの身体中から圧を感じるものだ。既に何人も殺した彼だからこそわかる雰囲気。だが心の中の優しさを感じて泣きそうにもなってしまう…
「兄ちゃんまだ20歳とかだろ?若ぇならもっとリラックスして生きてみたらどうだ?人生は長ぇぞ」
「……」
何でだろう。激励の言葉を掛けてくれたのは佑香以来初めてだった気がする。今は佑香と連絡が取れない(連絡先は覚えているが反社と関わっている理由で)。
「さあさあ!できたぜ!ご注文の辛味噌ラーメン大盛りッ!」
注文したのは辛味噌ラーメン大盛り。彼はかなりの激辛好きだが食べすぎてトイレの住人になることもしばしば…しかし何故かチャーシューが5枚も乗っている。それに味玉と九条ネギも。
「あれ?これは…」
「サービスだぜ!若ぇのは沢山食って精を付けなきゃダメだ!さぁ、食ってくれ!」
「いただきます…」
フーフー…ズルズルズル…!
暑い夏でも食べたくなる辛いラーメン。辛いとは体質上感じないが汗がじんわりと出る。ハンカチで額の汗を拭きながら熱々のラーメンを啜る。
「可愛いハンカチじゃねぇか?」
「これですか?彼女から貰ったんです」
男性が持たないようなピンク色のハンカチ。佑香から誕生日プレゼントに貰ったハンカチを肌見放さず持ち歩くほど彼は物を大事にする性格だ。
ズルズルズル…
「ご馳走様です!」
「まいど!」
店主は大盛りとトッピング代をサービスしてくれた。この街、葉琉州町は犯罪が絶えなくとも人柄の良い人間は確かに存在する。彼はこの街を守りたいと思うようになった。だが彼の正義感は今、とんでもなく間違った方向に進んでいる…
ドスッ…ドス…!バタン…
「もう…やめて…くれ…!許し…ギャァァァ…!!」
グリ…グリ…!
「もうけっこうです!やめてください…!」
「何故です…この男に怯えてたんですよね…?」
彼は必要以上に男の指をグリグリと踏み続ける。理由は執拗なストーカー被害に遭っていた女性が彼に助けを求め、そのストーカー男に遭遇して苛烈な暴力を加えたのだ…水瀬幸人は公安ながら"犯罪者"と見なした人間を次々と粛清する悪魔。
「フフ…(やっぱり人を痛めつける感覚は堪らない…!)」
「ギャァァァ……!!」
「お願いやめてッ…!」
必死の訴えが効いたのかようやく指から足を離らかした。確かにこのストーカー男は彼にとって殺すべき存在ではない。かなり時間を食ってしまった…
「大丈夫ですか…?」
優しく無事を確認する表情は穏やかだが、彼が発するのは優しさじゃなく狂気…助けられた女性は自分のバッグを握り締めながら
「い…イヤぁー…!!」
女性は逃げたがストーカー男は痛みと恐怖で失神。
「やりすぎたか…フンッ…」
人を痛めつける行為は彼が今までされた暴力と重なり、何故幼少期はただ受けるしかできなかったのか…?受けることしかできなかった事実はやはり彼の身体に表れている。本当なら誰か自分を止めてほしい…
「そろそろ時間か…」
時刻は13時。彼の読みが正しければブランストンの社員たちがモカワに向けて何かしらの嫌がらせをしてくるだろう。それに社長(モカワ)の息子である宮澤洸平の行動に少しきな臭い何かを感じる。今回任されている任務はモカワの護衛であるが犠牲者を出さずに終わることができるのか?
同刻。
「じゃあな!」
「洸平、お前経済学出なくていいのか?」
「今日はかったりぃんだよ…」
「そっか…」
まだ経済学にその他履修した講義があるが洸平はいつも早く大学をバックれている。評価では「可」さえ取れればいいと考えているため毎度の如く成績はギリギリ。
「さてとあいつら誘って飲みにでも行っか…」
あいつらとは過去に幸人を一緒にイジメていた牧野健太郎と鹿野光輝。牧野は違う大学に通う学生で鹿野は都内で鳶職をしている。メールを2人に送ると返事はOK。だが夜の時間まで暇だ…すると洸平はどこかへと電話を掛けた。
「あぁ俺だ。予定通り進めてくれ…死人が出ただと?構わない…」
一体どこへ電話を掛けている?死人が出たとあるが…
その頃、株式会社モカワでは
「……またか…」
会社の入口は生ゴミが廃棄されている。真夏日の暑さも相まって会社の中まで悪臭が漂う。業者を手配してゴミは回収してもらって会社の中へ入ると
ザワザワ…
「どうしたんだ?」
「社長!」
「うぅ…うぅぅん…!」
一人の女子社員が顔を伏せて泣いている。彼女のデスクに目を移すとそこには何枚もの写真、それも着替えや下着を盗撮された写真がずらりと並んでいる。
「誰がこんなことを!?」
「もう他の女性社員は怖くて外に出られてません…」
ライバル企業のブランストンの仕業で睨んでも社員数が多すぎて犯人が誰かを特定できない。さらにネットニュースを開いてみると
「モカワの栄養ドリンクに青酸カリ!?死者多数…」
の記事が…
「クソッ…!!」
「社長…!」
「俺らの一体何を恨んでいるってんだ!?」
このままじゃ社に未来がないかもしれないと考えると発狂寸前だ。すると
ピコン…
「社長、何か通知来てますよ」
「あぁ…」
送り主は水瀬幸人。あの公安の人か
「あなたが悩まされていることはもうすぐ終わります。ですが覚悟しておいてください。」
の一文だけ書かれている。どういうことかとメッセージを送っても既読がつかない。覚悟しておいてくださいの文面だけが妙に気になる。
その日の夜。
「かんぱ〜い!」
「乾杯!」
洸平は牧野と鹿野の3人で居酒屋にいた。
「気にせず飲め!今日も俺の奢りだ」
「ゴチになります!」
「俺も払えるぞ?」
「確かにお前働いてるもんな」
鹿野は既に正社員で働いているため牧野より持ち合わせがある。
ゴクゴク…!ゴクゴク…!
「今日はペース早いな?」
「お前は飲んでねぇじゃねえか?」
「俺は明日仕事だからなぁ…しかも明日から本格的に鉄骨組むしな」
「俺も大学終わったらバイトだよ」
一番酒が進んでいるのは洸平。他2人は明日のために量は控えめだがオーダーした料理はどんどんと食べ進める。唐揚げに刺身、フライドポテトはやっぱりいつ食べても美味しい。
「生おかわりとハイボール…水尾も追加だ!」
「おい大丈夫か?」
「いつもより飲むなぁ…」
既に2リットル以上飲んでいる。すると洸平は酔った勢いで信じられないことを発言し始める。
「なぁ水瀬幸人って奴覚えてるかぁ!?」
「水瀬幸人…?」
「水瀬幸人って確か…あっ!」
懐かしい名前を聞いて黙り込む2人。実は洸平以外の2人は幸人をイジメたことを深く反省している。そもそも3人は中学を卒業して同じ高校へ進学したのだが、洸平だけは性根が変わらず別の同級生をイジメていた。だがあまりにも度を越したイジメを行った結果、その同級生は自ら電車に飛び込んで命を絶ってしまった…それでも洸平は一切反省せず、まるで武勇伝のように大学で話し回っている。
「幸人がどうしたんだ…?」
「あいつ公安やってるみてぇなんだよ!」
「お…おいっ…!?」
「お前!聞こえちまうぞ!?」
他の席にも聞こえるくらいの声量で公安と発言する。本来聞かれてしまうのはかなりマズい…あまりにも大声で話すため他のお客さんや店員が3人の方へ向く。牧野と鹿野は苦笑いで何とか誤魔化すが
「何かあいつ親父の会社を護衛だが何だかしてでなぁ!」
「おいもうちょっと声抑えろ…!」
それに公安ということは超エリートなはず…あいつは超意外な道へ進んでいたのか?
「飲みすぎだぞ…!今日は俺たちが払うからこれで帰るぞ!」
「酒が不味くなること言うなぁ!」
抑えようとしても喋る勢いはむしろ増していき、周りからは冷やかな視線が集まる。そして洸平は遂にとんでもないことを酔いに任せて暴露してしまう。
「親父の奴金使いすぎだぁなんか抜かしやがってカード止めだんだよぉ!どっかで楽に金貰えねえかと考えてたらブランストンの社長が俺を雇ったんだよ!」
「ブランストンって親父さんのライバル企業とかじゃないか…?」
「親父んとこのZパワーだとかに青酸カリ入っでたニュースあるだろぅ!?」
「それって…誰か亡くなったあのあれか…?」
「あれ俺入れたんだよぉ!」
「何…!?」
「何だって!?」
「…!?」
突然の衝撃発言に店内にいる全員が同時に固まる。周りの反応にすら気付かない洸平は大っぴらに衝撃の事実を次々と暴露し
「すいませんお会計お願いします!」
「洸平…お前いい加減にしろ!」
2人は洸平を無理矢理立たせてそのままお会計へ
「お会計4万980円になります…」
「一旦は俺が払う。明日にでもこいつに請求してやろう…」
「俺も2万なら払える」
「無理すんな…バイト代まだ入ってないだろ?いいよ!」
「が〜が〜…」
「しかもこいつ寝てるし…!」
お会計を済ませ一旦近くのベンチに座らせる。
「なあ洸平の言ったこと本当だと思うか?」
「こいつの話基本デマカセなかったからなぁ…何か嘘とは思えねぇ…」
「はぁ~…ってかあの幸人が公安やってるなんてなぁ…」
「でもあいつ頭良かったもんな?あのエルム高に特待生で入ったって聞いてたし…」
「けど俺たち聞いちまったからヤベえんじゃねぇか?何か機密情報に触れちまった気分だし…」
既にベンチで眠ってしまったが夜でも気温はかなり高く、放っておけば熱中症になるリスクが高い。取り敢えず病院にでも連れて行こうかとスマホを取り出した瞬間…
ドカーン…!
「な…何だ…!?」
「オイオイオイオイ…!?吟四郎が燃えてるぞ!」
激しい爆発音がした方へ目を移すとさっきまで飲み食いしていた居酒屋が凄まじい炎に包まれている。まるで爆弾でも爆発したような威力の炎だ。
「おい中にまだ人いるだろ!?」
「今通報した!」
炎の勢いが強すぎて中へ入ることは当然不可能。誰もが見ただけでもう手遅れだということがわかる。
「早く離れねえと!」
「洸平!洸平起きろ…!」
必死で揺さぶっても全く起きる気配がない。このままじゃ本当に高温で死んでしまう!2人は何とかお互いの肩を貸しながら
「せーのっ!」
すると…
ドン…!ドン…!
「うわぁっ…!?」
「あぁっ…!?」
金属バットが胴体に直撃して2人はうつ伏せに倒れる。洸平は酔いでそのまま倒れ込みそうになるが
ガシッ
銃を撃った男の正体は何と
「困るなぁ…洸平君の話を聞いてもらっちゃぁ?」
「誰だ…!?」
「お前…ブランストンの…!」
「何だって…!?」
そう。吟四郎に爆弾を仕掛け、牧野と鹿野を撃った男の正体は株式会社ブランストンの代表取締役社長、押川陸(44)。
「悪いが秘密を知ってしまったからには死んでもらうしかないな…殺れ…」
押川は洸平を車に乗せてそのまま逃走。追おうにも鈍い痛みが襲ってまともに動かない。そしてマスクをしたスーツ姿の男3人がナイフを持って静かに迫ってくる。おそらく押川が金で雇った殺し屋か何かだ。このままじゃ殺されてしまう…!だがそのとき!
グチャッ…!
「グワ…」
突然鈍い音が響き渡る。何か鈍器にでも殴られたような音だったが…投げられたのはただの石だ。
「ゆ…幸人…!?」
「お前…!?何でここに…」
そこにいたのはまるで野球の投手が投げた後のような体勢になっている一人の男。何とさっきまで噂話の話題に入っていたあの水瀬幸人だ。
「……」
彼は一言も発することなく殺し屋に近付いていく。
「おい止せ!」
「何してんだ!?早く逃げろ!」
まるで聞く耳も持たず一歩一歩近付いてくる。その姿は幼い頃にあった臆病で弱かった面影は一切なく、まるで別人を前にしているような感覚。見たこともない水瀬幸人だ。
「目を閉じててください…後悔したくなければ…」
そう冷たく発した次の瞬間…!
フッ…
さっきまでいたはずの彼が急に姿を消した。どこへ行ったんだ?
ザシュッ…!
彼は一瞬の隙もなく男の背後へと回り、手に持っていたナイフを奪ってそのまま斬首。慌ててもう一人は彼の腹部を目掛けてナイフを突き立てるが
シュッ…ブシャー…!
「うわぁー〜…!?」
何とナイフを一振りしただけで男の肘から下がポトンと落ちる。そして…
グサッ…!
「カァ…!」
腹部へと突き刺したナイフはそのまま縦一直線上に斬り上げ…
ブシャー…!
噴水のように溢れ出る返り血…もう何回浴びているのか覚えていない。だが返り血を浴びることは彼にとって快感になっていた…あまりの光景に腰を抜かす牧野と鹿野は
「お前…本当に幸人なのか?」
ドゴン…!
「うわっ…!?」
「お前っ!」
ドゴン…!
「グワァ!?」
まるでイジメの意趣返しのように蹴りを顔面に喰らわせる。血は出ない威力だがまるでバスケットボールが豪速球でぶつかってきたみたいだ。
「これはせめてもお返しです…」
「痛ぇ…!」
「幸人…!」
「安心してください…別に殺しはしません。ただ少し協力してもらいますよ」
顔面を蹴られた上に冷たい視線を送られた2人は従うしかない。2人は一斉に土下座をすると
「幸人…!あのときは本当に悪かった!本当に反省してるんだ…!」
「本当に悪かった…!俺たちにできることがあれば何でもする!慰謝料なり何でも払うから!」
「恥ずかしいからやめてください…お金も何もいらないです…!」
さっきの蹴りで借りなら返した。それでも洸平以外のこの2人はきちんと反省していることが身に沁みてわかった。
「ここじゃ暑いでしょう…まだ飲み直せるなら場所を移しましょうか?」
「幸人ぉ…!」
「お供します幸人様…!」
「幸人でいい…」
数分後。
ゴクゴクゴク…!トンッ…
「幸人…意外と飲むんだな?」
「夏はビールに限るでしょう…それより、洸平君のことについて知っていることを全部話してくれませんか?」
「洸平だよな?」
酒を飲みながらだが2人は宮澤洸平の話を淡々と彼に話し始める。
「高校のとき、あいつにイジメられた男子生徒が一人…電車に飛び込んで自殺したんだ…」
「正直あんとき、あいつを止められなかったことを罪に問われると思った…」
「知ってますよ。名前は本田央介さん…確か洸平君は何の罪に問われることなく、学校もイジメ問題を取り上げなかったんですよね?」
「本田は母子家庭で母ちゃんしかいなくて…突然学校側を訴えたけど結局何も進まなかった…本当なら俺が教えたかったけど、俺まで罪になると思ったら怖くてできなかった…!」
「ですが洸平君のイジメを少しでも止めることならできたでしょう?」
「そうだよな…本当にそうだよ…!」
いくら後悔しても失った命は勿論返ってこない。
「それより、さっき変な殺し屋に襲われましたよね?それに吟四郎が爆発したり…」
「そうだ!あれは一体何だったんだ!?」
「結局何が起きてたんだ!?」
「あれはですね…洸平君のポケットに小型の盗聴器が入ってて、今回モカワの栄養ドリンク青酸カリ事件の真相を知ってしまった人間を探るためですよ…」
「何…それってまさか!?」
「洸平君が酔った勢いで話しただけでも知ってしまった者同然…あなたたちの他吟四郎にいた方々が抹殺対象になったわけですよ…」
そう。さっき起きた吟四郎の爆発事故は事故ではなく、押川陸が仕組んだことだった。しかも洸平がただ単に、モカワに降り掛かった一連の事件を酔った勢いで暴露し、それを聞いてしまっただけで知った者として抹殺対象になり、爆破されたという何とも大迷惑な話だった。牧野と鹿野は店から離れたことで爆撃を免れたものの、逃れたらさっき仕向けられた殺し屋のような者に命を狙われる。遂に洸平は友人すら売る行動に出たのだった。
「ちょっと待ってくれよ!なら俺たち殺されるかもしれないじゃないか!?」
「オイオイマジかよ…!?」
「安心してください…ブランストンも洸平も、もうすぐいなくなりますから」
何と彼は洸平と呼び捨てにした。
「いなくなるって…」
「因果はいつか自分に返ってくるという意味ですよ…」
今日まで殺意を抑えていたがこれで心置きなく洸平を殺せる日が来るとは…これだから人を殺すのは楽しみだ…!さあ僕を楽しませてくれ…死にゆく顔を僕に見せてくれ…!


