祝福のあとで

③

翌日の午前中。

 ひかりは、資料を揃えながら、進行表に目を落としていた。

 披露宴中盤。
 歓談。
 バーカウンター使用。

 昨夜の会話が、文字の隙間から静かに浮かび上がる。

 ——外部スタッフ。

 それは、特別な判断じゃない。
 珍しいことでもない。

 そう言い聞かせながら、
 ひかりはスケジュールを一つ、確定させた。

「神崎さん」

 声をかけてきたのは、あきだった。

 会議室の入口に立ち、
 タブレットを片手に、いつもの落ち着いた表情。

「バー演出の件、進めてます?」

「はい。外部スタッフで調整する方向です」

 即答だった。

 迷いを挟む余地はない。

「了解です」

 あきは頷き、画面を確認する。

「こちらとしても、その方が安心です。
 当日は、想定外が起きやすいですから」

「そうですね」

 言葉を交わしながら、
 ひかりは、自分の声が落ち着いていることに気づいた。

「ちなみに」

 あきが、ふと顔を上げる。

「もう、目星はついてますか?」

 一瞬だけ、間が空く。

 ほんの一拍。
 考えるふりをする必要はなかった。

「……はい」

「知り合いですか?」

 問いは軽い。
 業務的な確認。

 ひかりは、少しだけ言葉を選んでから答えた。

「仕事で、お願いしたことのある方です」

 嘘ではない。

 あきは、それ以上踏み込まなかった。

「それなら問題ないですね」

 むしろ、納得したように頷く。

「信頼できる人がいるなら、その方がいい」

 その言葉を聞いたとき、
 ひかりの胸の奥で、何かが静かに定まった。

 あきは、
 今も、正しい判断をする人だ。

 でも。

 その「正しさ」に、
 もう戻ろうとは思わなかった。

「詳細が決まったら、共有してください」

「わかりました」

 あきは軽く会釈して、部屋を出ていく。

 ドアが閉まったあと、
 ひかりは一度だけ、深く息を吐いた。

 仕事として、正式に外部へお願いする。

 それは、
 誰かを選ぶことと、同じだった。

 ひかりはデスクに戻り、
 バッグの中にある名刺の存在を思い出す。

 ——今夜、もう一度。

 確認しなければならないことが、できてしまった。
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