Toxic・Romance
「月島さんの場合、経験した方が小説に奥行きが生まれるんじゃないの」
NO、を作っていた両腕が、ゆるゆると下がる。
「あ、それもそうですね……?」
相手を折るつもりが折られてしまった。
「はは、ちょろ」
そんな私をみて、片桐さんは楽しそうに肩を揺らした。彼はしずかに笑うひとだ。癪だし、どうにも気に入らない部分のほうがずっと多い。
だけど、しらない片桐さんを知るうちに、私の中の知らない……ともすれば知りたくない感情が増えていくのを自覚し、見ないふりをした。
「面白いわ、普通に」
「普通に、なんですか!」
「いいから風呂入ろ。眠い」
「おふろ……!」
あの虹色のおふろには入りたい。岩盤浴も捨てがたい。でも、片桐さんと一緒に……?あの筋肉の美しさをもう一度見る……?
いや、無理でしょ、無理無理、無理無理無理無理!
百面相を繰り返す私をみて、片桐さんはまた、たのしそうにする。
さあ、どうする。
ただしい恋愛をおしえてと言ったのは片桐さんだ。
しかし、私の中でちかちかと点滅し始めたしらない感情のなまえをおしえてと頼めば、はたして彼は、正直に、私が分かる名前で、おしえてくれるのだろうか。