Toxic・Romance
片桐馨は甘さを覚えた
あの日、泣きすぎて疲れた私に、片桐さんはあたたかい飲み物をくれた。自販機で買ったらしいそれは、泣き疲れた私の顔をやさしくあたためてくれた。
私の愚痴とも呼べない弱音を片桐さんはすべて聞き終えると、『もう遅いから送るよ』と、家まで送ってくれることになった。いつも、疲れきった身体で足取りおもくたどる道。見慣れた住宅街を、片桐さんと並んで歩いている。
それだけのことなのに、どうにも現実味がなくて。頬を抓ってみたり、隣を見上げてみたりして、これは夢じゃないと何度も確かめた。確かめるたびに、じわじわと頬が熱くなった。
「あ……ここです」
おかげで、いつもよりいくぶんか早く家にたどり着いたマンション。うれしいような、さびしいような、言い表せない感情に取り憑かれそうになるのを堪えた。
「おー」
片桐さんは私の住むマンションを見上げると、感情のこめられていない、まるで母に対するやる気のない返事をする息子、のような雰囲気を醸し出している。
「なんですか、その感想」
「月島さんの家だなーと思って」
「(……どういういみ?)」
おそらくそのままの意味だけど、意図はふめいだ。