Toxic・Romance
それに、彼に恋人がいるって話はしばらく聞かない。正しい恋愛を知りたいとは言ったけれど、誰かと恋愛に発展しそうな雰囲気、全くなかったよね?
いつ本気になった?だれを?──……だれと?
ああ、どうしよう。考える度にちくりちくりと細かな針に刺されているように心臓がいたい。いつもは創作意欲を刺激し、インスピレーションが雨のように降り注ぐのに、今の私にとって彼らの会話はプラスにはならない。どうしても。
「戻りますか」
短時間に様々な妄想を繰り返すわたしを他所に、時間が無いと判断したらしい社員たちが席を立つ。
「俺、あと一本吸い終わって戻るわ」
「おー」
二人が笑いながら出ていくと、片桐さんは吸い始めたばかりの煙草を灰皿に押し当てた。
「……また盗み聞き?」
片桐さんは振り返りもせずに、低く、掠れた声で言った。真意が分からない。分かりたくない。分かったら、全てが終わる気がして、聞き出せない。
「……私を泳がせているのは、あなたの方です」
「ひどいな。また名前、忘れた?」
「覚えてますよ!ひとを物覚えが悪いみたいに、言わないでください」
「じゃあ、言ってみて」
唇を噛んで黙る。