Toxic・Romance

 呼びたい。呼んで、さっきの話なんですか?って、ためらいなく問いかけたい。けれど、私と片桐さんは、契約のような口約束で結ばれているだけの関係。踏み込むことを許されるはずがない。手を伸ばせば届くこともない。嫌だと言って、すがることもできない。

 ままならないこのもどかしさをぶつけたくて、私は意固地になる。

 その手が、綺麗な指先が、そっとわたしの顎に触れ、強引にうえを向かせた。冷たい指先が熱を帯びた肌を這うと、片桐さんの視線とぶつかる。

「早く。昼休み、終わるよ」

 頑固な感情がほどけていく。私は片桐さんに弱みをにぎられている。だから、私は彼の望みを拒絶できない。

 ……本当に、それだけ?

「……片桐、さん」

 私の言葉が狭い空間に溶けて消える。片桐さんは目を細め、息を吐いた。

「下の名前で呼べよ」

 そして言い渡される無理難題。

「無理です、無理!」

「こないだ、ベッドの上では呼んだっしょ」

 頬が一瞬で朱に染まるのを感じた。

「あれは、な、流れというもので……」

「あんたは流れがないと泳げないのかよ」

 美しい造形が嘲笑うのを見た。彼の親指が、私の下唇をゆるりと撫でる。
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