Toxic・Romance
𓂃 𓈒𓏸
その人は、灰色の煙の中にいた。
青藍社員専用フロアにある喫煙所。ガラス張りのその空間で、彼は一人、窓の外を眺めながら細い指先でタバコを挟んでいた。 ふう、と薄い唇から吐き出された煙が、彼の白い肌をなぞるように消えていく。仕事の疲れか、あるいは別の何かか。
わずかに細められた瞳は、会議室で見せたあの「圧倒的な光」とは違い、どこか冷淡で、近づきがたい影を宿していた。
運命的な何かを感じ取れるほど、私の脳はお花畑ではない。
──彼を見つけたのは完全に偶然だった。
社食からの帰り道、御手洗に立ち寄った際、偶然あの人(と、同僚らしき人物たち御一行様)を見つけたのだ。
「なあ、聞いたけど、あのモデル美女と別れたんだって?」
同僚の冷やかしに、彼は面倒そうに視線を伏せ「ああ、うん、別れた」と、サラッと告白した。
「あんなに尽くしてくれてたのに。何が不満だったんだよ」
「四六時中、浮気疑われて。スマホの通知ひとつで尋問。しんどいし、疲れる」
「そりゃあ、お前みたいな顔してりゃ不安にもなるだろ」
「知らねえよ。恋愛に、そんな無駄なコストかけたくない」
身も蓋もない言い草だった。隣で聞いていた私の方が、思わず「ひどっ」と零しそうになるくらい。
その人は、灰色の煙の中にいた。
青藍社員専用フロアにある喫煙所。ガラス張りのその空間で、彼は一人、窓の外を眺めながら細い指先でタバコを挟んでいた。 ふう、と薄い唇から吐き出された煙が、彼の白い肌をなぞるように消えていく。仕事の疲れか、あるいは別の何かか。
わずかに細められた瞳は、会議室で見せたあの「圧倒的な光」とは違い、どこか冷淡で、近づきがたい影を宿していた。
運命的な何かを感じ取れるほど、私の脳はお花畑ではない。
──彼を見つけたのは完全に偶然だった。
社食からの帰り道、御手洗に立ち寄った際、偶然あの人(と、同僚らしき人物たち御一行様)を見つけたのだ。
「なあ、聞いたけど、あのモデル美女と別れたんだって?」
同僚の冷やかしに、彼は面倒そうに視線を伏せ「ああ、うん、別れた」と、サラッと告白した。
「あんなに尽くしてくれてたのに。何が不満だったんだよ」
「四六時中、浮気疑われて。スマホの通知ひとつで尋問。しんどいし、疲れる」
「そりゃあ、お前みたいな顔してりゃ不安にもなるだろ」
「知らねえよ。恋愛に、そんな無駄なコストかけたくない」
身も蓋もない言い草だった。隣で聞いていた私の方が、思わず「ひどっ」と零しそうになるくらい。