Toxic・Romance


 私も、震える手で名刺入れを探し当てる。

 まさか、まさかまさか、まさかね?
この人が仕事の鬼なわけない。雑な指令ばかり送るような鬼畜なはずない。

「挨拶が遅れて申し訳ないです」

 彼はそう言ってやわらかに微笑んだ。簡単な笑みだけど、ああ、違うんだと。私の思い過ごしだったんだと、勝手に安心材料に仕立てあげた。

「いつもお世話になってます、月島さん」

 両手の中に収まったネイビー色の四角には《青藍PR 企画課 片桐馨》と書かれていた。


「(嘘でしょ……!?)」


 わなわなと震える。

 雑なひと、兼、企画のひと、兼、片桐さんは、腕時計を確認すると、上辺だけの笑顔を私に向けた。

「とりあえず、金曜の夜かな。またメールする」

すれ違いざま、彼はほんの少し身をかがめた企画のひととの、不意に縮まった距離に、心臓が跳ねる。

思わず一歩引こうとした私の動きを、逃がさないと言わんばかりに、彼の腕がさりげなく行く手を塞いだ。


「徹底的に遊んであげる」


耳元で低い声を流し込むと、片桐さんは何事もなかったように身体を離した。

私の中に余韻だけを置き去りにして。


ああ、私の人生、終わった───。


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