Toxic・Romance

 決意をかたくする。女性にだらしがないのも、相手をないがしろにすることも、物語を彩るスパイスとしては最高の調味料。けれども、現実ではお断り。片桐さんがどんな付き合い方をするのは彼の勝手だけど、自分勝手な恋愛に私を組み込むのはやめてほしい。

 腕を組んだ片桐さんは「成程、浮気か」と、一言つぶやいて、おもむろにスマホを取り出した。何を……とその様子を見守っていれば、スマホを耳に当てた片桐さんは、細い煙草を気怠げに咥えた。紫煙がゆるりと彼の周囲に漂う。

「ああ、うん。ごめんね、急に」

 片桐さんの声がほどけてしまうほど柔らかくなる。しかし、その表情は冷たい。

「一昨日、今度のプロジェクトで会う役員の娘さんを断る口実に、彼女になって欲しいって話したじゃん。……そう、話を合わせるための。あれ、なしでいい?」

 ぴたり、私は静止して、息を潜めた。

「忙しいって聞いた手前、時間を取らせるのも申し訳なかったし。……え、時間くらい作るって?いや大丈夫、大丈夫。良い代役も見つかったから」

 初耳だけど、いや、初耳だからこそわざとらしく片桐さんは、説明文のような言葉を並べたのだろう。おそらく電話口は恋人……いや、正確には恋人だった人。

「また別の機会に。ん、じゃあ」

 それから、彼が言う今回の「彼女」には、理由と正当性が付随していたことを知る。
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