Toxic・Romance


 なるほど、片桐さんの同僚たちは、彼の立場、あるいは彼を取り巻く状況を理解した上で、突然の恋人宣言や価値観に納得していたのだろう。

 直接伝えられたわけではないのに、点と点が結びついてゆく。そして何故か、いや〜な気配がすることも、私には分かってしまう。

 彼はスマホをポケットに放り込むと、壁に背を預けたまま、口の端を持ち上げた。

 憎たらしいほどうつくしく、一国の王さまが退屈しのぎに人間で弄ぶかのような意地悪な笑み。

「えー……っと、あ! 私、急用を思い出しました」

 神さまでもなく、ましてや王でもない一市民の私に選択肢は少なく、一般的で非凡な、逃げるを選択する。

 すると、片桐さんはすらりとした長い足を伸ばした。私のすぐ横の壁に靴底が重なり、ガタッ、と鈍い音が響く。

 咄嗟に身を翻そうとしたけれど、逃げ道は彼の足によって完全に塞がれていた。

 至近距離で見下ろす彼の瞳は、先ほどの甘い電話の声とは裏腹に、獲物を追い詰めた猛禽類のように鋭い。

「あー、俺、困ったなあ。月島さんに説教されたせいで、せっかくの協力者を失っちゃったよ」

 私のせいではなく、自分で切ったのあなたでは!?

 責任転嫁はやめていただきたい。それに、言っちゃ悪いが、全然困っているようには見えないし、彼の笑顔はこの状況を全力で楽しむ、支配者のそれだ。
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