拝啓、青空の向こうの君へ

雲の向こう



───どうして言ってくれなかったんだ。言ってくれれば、僕は、……。僕にはなにができる?何も出来ないじゃないか。何も出来ないから言ってくれなかったんじゃないか。どうしてこんなに無力で弱いんだろうか。



僕はどうやったら君の力になれた?



また君に会いたい──────────。




「雲の向こうはいつも青空なんだよ。」そう彼が言う。
私はめんどくさくて適当に「そうだね。」と返した。

最近登校中はいつもこの話から始まる。
きっと今彼の中ではそんな感じの小説がお気に入りなのだろう。彼は好きな小説の中の気に入った言葉をよく使う。最近はよほどお気に入りなのかずっと同じ言葉を言ってくる。

彼が「もっとしっかり答えてよ〜」と言ってくるが私は聞こえないふりをする。最初は「当たり前じゃん。何を言っているの?」と返していたが、返答が「いつか行ってみたいよね〜」と会話にならないのでしっかり答えるのをやめた。
彼が「ねぇ〜どういう事なのか聞かないの?なんか聞いてよ。」と期待に満ちたにんまり顔で私を見てくる。私は「聞かない。死にたいって事でしょう?」となんとなく答えた。
「もう!なんでそういう答えになるかな!?合って
るけど!合ってるけど!!」
彼はそっぽを向いてしまう。どうやら私は彼の求めていた返答が出来なかったらしい。なんで2回言ったんだろう。彼はもう話す気がないらしいので、私は考え事にふける。

合ってるんだ。死にたいんだ。心臓が少し冷たくなったきがする。普段の彼は能天気でおちゃらけていて何も考えていないような男だったのに。幼なじみなのに知らないことも沢山あるんだなと思った。彼が死んだら私はどう思うのだろう。なんとも思わないのかな。何も感じないのかな。


そう考えている間に学校に着いたようだ。彼とは同じクラスなので、ほとんど一緒に行動している。彼は私以外にも、「雲の向こうはいつも青空なんだよ」と、言い歩いている。大体の人は「へー」と、興味の無さそうな返事をして話を終わらせる。この学校は、あまり他人に興味が無い人が多いためそれが大半だ。もしかしたら言葉のキャッチボールが苦手なのかもしれない。自分の言えたことじゃないけど。そして、人に興味のある人は、「えーそれどういうことー?」と聞き返してくる。彼はその返答には答える気がないようで、「え〜なんだろうね」と自分から言った話のくせに話を切り上げた。私には気にならないの?と聞いたくせになんなのだろうか。 彼とは幼なじみなのだが、昔から何を考えているのかわからない。

いや、分かろうとしなかっただけかもしれない。彼はいつもどこか壁を感じる時がある。男女の幼なじみなんてそんなものか。もうすぐホームルームが始まる。彼はまださっきとは違う人に「雲の上はいつも青空なんだよ」と、絡みにいっている。私はそんな彼にそろそろ席に着け、と睨みをつけて彼を自分の席につかせると、前を向いて先生を待った。…?時間になっても先生が来ない。クラス中がザワザワしている。しょうがない。
「私が呼びに行ってくるよ。」と席を立つ。すると、
「えー?呼んできちゃう?あと5分だけ待ってみよ?」と女子が言ってきた。こう言われるだろうなと予想していたからすぐに、「でも…、もし集会なのに忘れてたりしたら大変だから…呼んでくるね。」と言った。
「だーかーらー。呼ばなくていいって言ってるよね?学級委員だからっていいこちゃんズラしないでくんない?」…また、やってしまった。こうなるとしばらくは私に絡んでくる。どうしよう…。俯きながら考えていたら急につま先に鋭い痛みが走った。
「痛っ…」どうやら足を勢いよく踏まれたようだ。

「ねぇ!!何無視してんの!?何とか答えなさいよ!!あんたなんて、私よりも偉くないの!ここで一番偉いのはこの私なの!!」そう言いながら私の足をグリグリと踏み潰す。急にどうしたんだろう。ヒステリックになっているのか話になんの筋も通っていない。

「っ…ごめん、私そんなつもりは…」
「ごめんなさいだろうが!!」彼女は辺りの椅子と机を蹴散らした。
「ごめんなさいっ…ごめんなさい。」とりあえず謝った。言うとおりにしていれば、これ以上ヒートアップすることは無いだろう。彼女は大きな声で話しすぎたせいか息を整えている。ちょっとそろそろ暴れすぎではないか。と内心はとても冷静で踏み潰された足の痛みをジリジリと感じた。…そろそろだろうか。その時ちょうど教室の扉が勢いよく開いた。
「…!大丈夫か!!」そう言って青ざめた顔をして私に近寄ってきたのは先生だった。
「私は大丈夫です。それよりも彼女をお願いします。勢いよく机と椅子を蹴散らしてたので多少、足にダメージがあるかと…。」私はそのまま伝えた。先生は彼女の腕を掴んで、目隠しをする。彼女は「キィィィィ、離せよ!!離せよォ!!!」と雄叫びを上げている。
「わかった。俺はこいつを保健室に連れていく。後は頼んでも大丈夫か?」私は「はい。」とだけ答えて教室を後にする先生と彼女を見送った。廊下からは彼女の叫び声が下の階から聞こえる。私は蹴散らされた机と椅子を並べ直しながら前回のことを思い出す。
こうなるのは初めてではない。たまにヒステリックを起こして教室をめちゃくちゃにし、クラスメイトをボコボコにするようになった。
私は最初から彼女に嫌われていたし、いつもヒステリックを起こすきっかけは私が目立っている時や、彼女の機嫌が元から悪い時だ。そういう時は私が前に出て彼女を収めるようにしている。本当は離れた方がいいだろうけど。クラスメイトを避難させるには嫌われている私に気を割いてもらっている方が都合がいいためだ。避難は男子の学級委員をやっている青空押し売りの彼がやってくれている。
最初は、「僕が彼女を収めるから君が避難をさせてくれ。」と珍しく自分から面倒事を請け負うと言ってきたが、都合上私がやった方が良いため押し通した。今では、状況をみて早めにクラスメイトを避難させ、先生を呼びに行ってくれる。わたしはクラスメイトとあまり関係を築いていないし、色々あって彼がやってくれていてとても助かっている。
今回は足を踏まれるだけで済んで良かった。最近は回数も増えてきているし、私そんなに嫌われてるのかな。机を並び直せたため考え事をしていると。クラスメイト達が戻ってきたようだ。不意に肩を叩かれ振り返るとそこには彼がいた。
「大丈夫?怪我してない?」と彼が心配そうに聞いてきた。普段は自分にしか興味が無さそうなのに明らさまに自分のことを心配してくれていることが少し嬉しい。
「うん。足踏まれただけ。」そういって踏まれた右足を出した。もう痛みはないし、普通に動くから問題は無いだろう。
「痛くないからってそのままにしておいちゃダメだよ。あとから痛くなったら嫌でしょ。せめて冷やそう。」と彼はロッカーに向かった。私はそのあとを追いかけながら、「いや本当に大丈夫だから、痛くなっても別に平気だし…。」
「良くない。」そういって彼はロッカーから保冷剤の包まれたタオルを出して私に持たせた。
「これいつも持ってるの?」今は1月の真っ只中で、運動をしても保冷剤がいるほど暑くなることなんてないのに。彼女が保健室にいて行けないから、もしかして私が怪我した時のために?そんな自分勝手な答えが浮かんできたが。有り得ないな。そう思って出てきそうになった言葉を頭の奥にしまった。
「別に、」彼は、私の足に保冷剤を当てながら素っ気なく答えた。彼が今、どんな顔をしているのかとても気になったが私にはわからない。
足にじわじわと冷たい感覚が広がる。…流石に冷えてきた。まだ真冬の1月だし、これ別に冷やさなくても大丈夫だったのでは、と思った。
「そろそろ寒くなってきたから大丈夫、ありがとう。
」「そう?痛くない?」私は「大丈夫痛くないよ。」と返した。
「良かった。次は美術のスケッチだから外出るけどブランケットいる?」
「え、そうなの?貸してもらうよ。ありがとう。」
彼はいいよ。とだけ返して、私に自分のブランケットをかけて、私の耳元で呟いた。「後で中庭集合ね。」それだけ言い残してそそくさと自分の準備に取り掛かってしまった。やっぱり自分のこと優先の方が彼には似合っている。ゆっくり準備をしていたら時間がギリギリになって来たため急いで支度をして校庭へ向かう。
校庭にはクラスメイト1人を除いて全員いたため早めに授業が始まった。
先生の説明が終わり。各自、自分の描きたい所へ行
く。
私は彼に言われた通り、中庭に向かった。彼の方が先に中庭についていたようで、彼は先にスケッチを始めていた。彼が描いていたのは校舎の脇にひっそりと生えた、まだ蕾のたんぽぽだった。なんでたんぽぽにしたんだろう。
「遅かったじゃん。足でも痛くなっちゃった?」
「いや、別に。」と素っ気なく返す。私も描くものを見つけないと。そう思って周囲を見る。中庭には古びたベンチと朽ち果てた小さい桑の木と大きな桜の木がある。ほとんど葉っぱは枯れ落ちてとても絵を描くには味気のないところだ。彼がたんぽぽを描いているのもわかる。私も、彼と同じたんぽぽを描くことにする。
「なに?たんぽぽ描くの?」と彼が聞いてくる。
「ここで描けるのはたんぽぽぐらいでしょ。それになにか話があるから私を呼び出したんでしょ。」そう言って彼を見る。彼は「うん。」と1回頷き、辺りを見た。私も彼につられて当たりを見る。どうやら、私たち以外はみんな校庭の方にいるらしい。そんなに、人に聞かれては行けないような話をするのだろうか。なんだろうだろう。と首を傾げながら彼を見る。すると彼がゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、やっぱりまだ顔は分からない?」と彼が心配そうに聞いてくる。私は、なんだその話か、と溜息をつきながら、めんどくさそうな顔を作る。「うん。分からない。」と、彼に答える。彼は「そっか。」とだけ言って絵を描くのに戻った。興味が無いなら最初から聞かなきゃいいのに。本当に何なのだろう。やはり彼は人にそこまで興味が無いようだ。そう思った時、彼がが小さな声で言った。「困った時は僕を頼ってほしい。その…僕も一応学級委員だからさ。」と彼が下を向きながら言った。私は少し驚いきながら、「大丈夫。話しかけてくるのなんて貴方か彼女しかいないから。」と答えた。
私はいつからか人の顔がわからなくなった。思っていたよりも人の顔が分からないのは困るけど、慣れてしまえば、服装や髪型などで大体誰だか分かるから最近はそれほど困っていない。だから彼に頼る必要も無い。

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