『愛をください』─ 叶わぬ想い ─
48 ◇正義の胸中


体調が悪いからと、正月に帰省しなかった妻。

盆休みに入る直前になっても、何も帰省の話をしてこない妻におそるおそる
帰省のことを訊いてみると……。

「あの、お盆に帰る新幹線のチケットのことだけど……」

「あぁ、言うの忘れてた。ごめんなさい。
 あなたのだけだから、自分で買ってもらえれば……」

「えっ? 帰らないの?」

「うん、そろそろ悟も受験の準備しないといけないでしょ? 
帰省してたら疲れちゃってすぐに勉強する時間がなくなると思うのよね。
あとから後悔しなくて済むように、帰省はやめさせようと思ってるの」

「そっか。なら、圭だけでも一緒に……」

「圭ね、私と悟が帰らないなら、自分もやめるって。
 何度か、あなたと一緒に帰ればって勧めたんだけど」


「そっか、分かった」

妻にはそう返事をしたが……。
結局、俺も帰らなかった。

両親には、妻が話していた通りを説明して分かってもらった。
母親からは、あなただけでも帰ってらっしゃいと言われた。

だが、正直、正月休みの帰省を1人でしてみて感じたのだが、"つまらない"の
ひと言だったんだよな~。

親父は無口だし、母親の話しは、まるで自分の耳には入ってこないし。

家族と一緒に帰省していた時には気付けなかった。
 


ただ、この時の経験で、いつの間にか正義の胸にはある種の不安が巣食うように
なっていた。


自分が営む家族という形態が、いつの間にかバラバラになりかかっているのでは
ないか? という不安。

だが、不安を払しょくするためにはどうすればいいのか……いつまで経っても
正義には思い付かなかった。

いや、分かってはいた。

だが、正義は"満島まほり"との付き合いをやめるという選択肢は取らずに、
なんとか家族の営みを、上手くやり続けたかったのである。

家族崩壊など有り得ないと思い込みたかった。
正義のそのような考えは、自己中からきていた。

今回の妻の言い分だと、おそらく来年も3人は帰省しないだろうと思われる。

だが、悟の受験が終われば帰省をやめる言い訳もなくなる。
再来年まで様子見するしかないかと、この時の正義は考えた。

まほりの件について由香は不満だろうが、爆発は起こしていない。
大丈夫、家庭も恋人とも上手くやれる、そう思っていた。
 
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