『愛をください』─ 叶わぬ想い ─
49 ◇4年後頃までの由香の暮らし
 
それから、時はゆるやかに流れ、季節は静かに巡っていった――――。

小さな幸せをひとつひとつ数えるように大切に重ねながら、私は
日々を過ごした。

          ◇ ◇ ◇ ◇


【正義の母/晴恵のため息】

正月に帰省をしなくなって3度目の冬、やはり例年通り帰り支度をする様子のない由香の様子に、
流石に鈍感な正義も薄々気付く。

由香が一切帰省しなくなったのは、自分が原因であることに。

そこで3年目は、おそるおそる両親に孫を会わせたいから息子たちに一緒に帰省するよう
勧めてくれないかと由香に泣きつく。

坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという諺があるほどで、由香の心情も似たり
寄ったりではあった。

しかし、四十路を越えた大の男(おっさん)の尻ぬぐいをその両親にとれというのも無体なことではある。

また、先に年老いていく人間が、この先世話になるかもしれない息子を
強く叱責などできまい。

叱責できるとすれば、他に頼れる娘や息子がいて蓄えも潤沢にあるというような──
そのように環境が整っており、尚且つ気丈な人間ぐらいのものだろう。

そういうものが嫌でも透けて見えるほどには、年を重ねてきた自分は、
情けないけれど夫の頼みを断ることはできなかった。

          ◇ ◇ ◇ ◇

悟16才圭14才、父親と共に、お盆に帰省する。

帰省した翌日、父親は近所の同級生と会うと言って外出した。
弟の圭はじいちゃんと一緒に正月の特番を見ている。

俺が特番の途中でトイレに席を立ち、戻ろうとした時、廊下でおばあちゃんから呼び止められた。
  
「悟くん、ちょっとい~い?」

「おばあちゃん、何?」

「ここしばらく由香さんの顔見てないんだけど……」

「……」

「私、気になっていてね。その、由香さんが帰省しなくなったのは、おばあちゃんが
お母さんの何か気に障るようなことをしたのが原因なのかもしれないんじゃないかってね。
嫌われちゃったんじゃないかって……」



「おばあちゃんが原因なんかじゃないと思うよ」

「そう? ならいいんだけど、どうしちゃったのかしら」

 自分(晴恵)が原因ではないと孫が言い切ったため、じゃあ何が理由なのか……
孫の言い振りだと他に原因がありそうに思えた。

「おばあちゃん、秘密守れる?」

 
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