『愛をください』─ 叶わぬ想い ─
67 ◇温泉宿での一夜の物語。

蒼馬さんと視線が絡み合う。

彼の指先が私の肩に触れ、その指はスーっと顎まで移動する。
そして、私の顎をほんの少し持ち上げると──私の口元に唇が落ちてきた。

そっとやさしく彼の唇が、私の唇の近くに触れる。

そしてそこから移動し、私の上唇を軽くくわえるように──
甘噛みするようなキスが続き──
今度は同じように上唇へとハムハムキスが続く。

時折舌を使ってきたりと、今までにも似たようなキスを仕掛けられたことはあったけれど、
今宵のキスはかなり長めにそして熱心に続いてゆく……。

時間も、周囲の目も、何も気にしなくていいという状況は、|蒼馬さんの
気持ちを軽やかにし、余裕を生んでいるのだろう。

心ゆくまで私たちふたりの時間を丁寧に紡いでいくのだと、
そういう彼の想いが伝わってくる。


          ◇ ◇ ◇ ◇


大学生の時に好奇心から、少し仲良くなった男子と彼の部屋でエッチした
ことがあった。

振りかえってみれば、お互いどうしようもなく好きで好きで、という
関係ではなく……。

性に興味があって、とにかく童貞を捨てたかった彼と、早く処女を捨てたかった私。

ふたりの気持ちが一致した中でのエッチだった。

たぶん、その時の経験は、お互いにぜんぜんいいと思えるようなものでは
なくて……。

それは以心伝心っていうか、そのあと私たちは暗黙の了解のもと、
会った時に挨拶する程度の仲に戻っていった。

その時の私はというと、恋人がいるわけでもなく、少しいいなと思う人はいたけれど、
じゃあその人と付き合えるのかっていうと、それはどう考えても無理ゲーという状況
だった。

相手の子も似たようなものだったんじゃないかな。

互いに、目的が達成できたのだからあれはあれで良かったと思う。
後悔なんてしてない。

それから社会人になり──
誰かから声が掛かればいいなって毎日思ってた。

早く、一生を共に仲良く歩んでいける男性(ひと)に出会いたいって
願ってた。

それなのに何人かから声は掛かったけれど、いいなと思える人からは声が
掛からずじまいで、寂しい毎日だった。

その頃仕事で接することのある蒼馬さんは、年も離れているし、奥さんも
子供もいるって分かってたから当然恋人候補から外れてた。

だけど、仕事で一緒になってその延長線上で昼食を一緒に行くようになってから、
いつの間にか異性として見るようになっていった。


そしてそのうちに、残業のあとの食事に誘われて付いていったり、流れで
メールやLINEをするようになり、うれしかった。

私の気持ちが伝わったのか──こういうのを以心伝心っていうのかな。

いつからだろう──
気が付けば職場ではただの部下と上司と言う関係には変わりはないけど、微妙に 
恋人未満の関係にシフトしていた。

 
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