俺様辣腕社長の甘い執愛~マッチングアプリなんて信じません!~
 ぐい、と首根っこを掴まれた。
(くっ、逃げられなかった……!)
 いやいや振り返ると、そこには完璧な笑顔の仮面を被った浩斗がいた。
「まあ、社長。こんなところにいらっしゃるなんて、いかがされましたか?」
 暗に、なんであんたがここに来るのよ!と問いかける。
「直接、話しておきたいことがあってね」
 お前が逃げることくらい想定済みだ、と言いたげに、浩斗は口角を上げた。
「申し訳ありませんが、明日でもよろしいですか?」
 今すぐこの場から立ち去りたいから明日にして、と結衣も微笑む。
「悪いが、今日話したい」
 俺の命令に逆らうつもりか? と浩斗が結衣を見下ろす。
 笑顔を張り付けたまま火花を散らしていたふたりだが、結衣の耳に同僚女子達のひそひそ声が聞こえてきた。
「さっき社長が〝結衣〟って呼んでなかった?」
「え、本当に? 呼び捨て? どういう関係?」
(まずい……!)
 社内の女子社員を敵に回すほど恐ろしいことはない。一瞬で顔色を変えた結衣は、すぐさま浩斗の腕をがしっと掴む。
「承知しました。お取引先の由井様の件ですねっ! すぐに対応いたします!」
 由井様という架空の人物を急遽でっち上げ、結衣は浩斗を強引にオフィス外へ引きずり出す。
 その場にいた社員たちが呆気にとられる中、ただひとり、玲奈だけが悔しそうに結衣の背中を睨んでいた。

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