MR(医薬情報担当者)だって恋します!
「橘先生は初めてのキスのことを覚えていますか?」
私の問いに、煙草を吸っていた橘先生がむせてせきこんだ。
「な、なんだ、いきなり」
目を白黒させて橘先生が私を見る。
「すみません、なんでもありません」
うなだれて言った私に、
「まさか、鈴木、したのか?」
と橘先生が驚いたように言った。
私は首を横に振った。鈴木とのはカウントしたくない。
「幼い感じだとは思っていたが、じゃあ、もしかして恋人がいたこともないのか?」
「実は、そう、です」
しどろもどろに返事すると、橘先生はふうと煙草の煙を吐いた。
「危なっかしいやつだな。変なのに引っかかるなよ? 」
「橘先生は変なのじゃなかったですよ」
「馬鹿。妻帯者に惚れる時点で間違ってるんだよ」
橘先生は頭をかいて、困った顔をした。
「他にいなかったのか? 例えば、千薬の同期とか」
「男子もいることはいますが、大学回ってるの私だけなので顔もあまり合わせないし……。そういう対象になりませんね」
「他社MRも独身は少ないかもな、ここ回ってるやつは……。ってなんの話をしてるんだ? とにかく安売りはすんなよ」
橘先生はいつもより余裕のない顔をしてそう言った。恋愛話は苦手なのかもしれない。なんだか可愛らしい。
「はい」
「説明会頑張れよ」
「ありがとうございます。先生は来てくれますよね?」
「ああ。弁当もらいにな」
笑って冗談を言う橘先生に私は少し怒った顔をする。
「弁当より、私のプレゼンをしっかり聞いてください」
「わかったわかった」
「失礼します」
橘先生の部屋を出て、いけない、と思う。やっぱり今日はぼんやりしている。
説明会を成功させるためにもしっかりしないと。